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HPVワクチン報道・ソース メモ と その周辺(2016年4月)

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ずっと書いていることですが、なぜか一部の報道はずっと「子宮頸がん予防ワクチン」という存在しないワクチンでの副反応の話として記事を書いています。これは「総称」です。

コーラはコーラでも、コカコーラとペプシコーラは別モノです。

醤油は醤油でも、ヤマサの醤油とキッコーマンの醤油は別モノです。

車は車でも、レクサスとアウディは別モノです。

抗菌薬は抗菌薬でも、いっぱいあります。 AとかBとかCとかDとかEF合剤とか。それぞれ別の薬。

高血圧の薬は高血圧の薬でも、いっぱいあります。 AとかBとかCとかDとか。それぞれ別の薬。

そもそも何の有害事象/副反応の話をしているのか?でありますが、「子宮頸がん予防ワクチン」という製薬会社のプロモーション/プロパガンダを連呼し続けている人たちは、話の本質をよくわかっていないのだということがわかります。

HPVワクチンは2種類ありますので、GSKのサーバリックス(2価HPVワクチン)、MSDのガーダシル(4価HPVワクチン)という、製造会社も内容も異なる、販売時期も異なる、接種した人も異なるものをひとまとめにして語ることじたいが成り立ちません。

少なくとも、どちらのワクチンの、接種からどれくらいたったときにおきている有害事象を問題にしているのか?です。

厚労省が公開している資料はワクチンごとに情報がまとめられてますので、1次情報を見たい人はPDF資料を1つずつ読めばいいだけです。


「子宮頸がん(予防)ワクチン」という存在しないワクチンを前提に2つまぜこぜにして語っているのはプロパガンダ。
その意味で製薬会社とやっていることは同じです。ベクトルが違うだけ。

まあ、そのほうが都合がよい事情がある人たちはさておき、誠実に検証をする人は1次データにあたるところからはじめましょう。


1次情報から調べる方はまず仕組み。安全性モニタリングは臨床試験の段階、市販後ともに行われています。

<各国のワクチンモニタリング> 
WHO Vaccine Safety Website
米国 Vaccine Safety Monitoring
英国 Vaccine Safety Monitoring

日本はpassiveな報告データや、レセプトデータ解析などを行っています。

オーストラリア Reporting adverse events
シンガポール Report Adverse Events related to Health Products

そのモニタリングを踏まえて継続されたり緊急対応が行われます。


報告数が一時的に増えるのは、報道の影響が大きいというのが過去の実態。
報道が減ると報告も減っていきます。


2015年11月 How anti-vaxxers have scared the media away from covering vaccine side effects
2013年11月 The role of media and the Internet on vaccine adverse event reporting: a case study of HPV vaccination
Media Coverage of HPV Vaccine Boosts Reports of Adverse Effects
アイルランド https://www.hse.ie/eng/health/immunisation/hcpinfo/conference/hpv3.pdf
2007年11月 カナダ Adverse events reported for HPV vaccine


各国それなりに報道による影響は経験をしています。

その上で、の現在のシステム。

<各国の公費予防接種プログラムでのHPVワクチン動向>
デンマーク 2016年2月から 公費プログラムのHPVワクチンを4価ワクチン Gardasilを2価HPVワクチン Cervarixへ変更(入札の結果)

※参考までに、英国は当初Cervarixを公費プログラムで使用していましたが、2012年9月にGardasilに変更しています。


EMA 2016年1月20日最終更新 HPV vaccines: EMA confirms evidence does not support that they cause CRPS or POTS

オーストラリア 2015年12月16日最終更新 Safety Information Gardasil (human papillomavirus vaccine)

カナダ 2015年12月9日 Summary Safety Review - GARDASIL

オランダ 2015年12月8日 HPVワクチン(2価HPVワクチン)の有害事象評価レポート

WHO 2015年12月7日 Global Advisory Committee on Vaccine safety Statement on Safety of HPV vaccines

ニュージーランド 2015年11月11日 HPV vaccination safety

米国 2015年11月2日 Frequently Asked Questions about HPV Vaccine Safety



2007年頃の計画が順調に進んでいるのは英国、オーストラリア、オランダ、スウェーデン。

オランダは費用を企業にディスカウントしてもらい2013年から男子にも公費で接種がはじまりました。
米国も推奨されており、州ごとにプログラムが異なるカナダでも一部の州では男子も公費で接種が可能です。

英国は費用対効果の試算において、男子への接種は公費ではしないとし(男子にも接種をというロビイングやアドボケイトは盛ん)、評価年ごとに接種率が順調に上がっています。今後、健診システムが見直される予定。

オランダは2016年より子宮頸がんのプライマリの検診をHPV検査に。オーストラリアは2017年からプライマリの健診をHPV検査に。そして健診間隔をあけています。

イギリスオランダブラジルは3回接種のところを15歳未満で接種を行う場合は「2回でもよい」とし、全体のコストが大きくさがりました。

2016年7月からインドのデリーで試験的に公費プログラムの導入がはじまります。
また、韓国が女子への公費での接種を準備しています。


このワクチンについての個人的意見というのは、ネット上にいろいろみかけます。
発言している人の背景も目的もいろいろなので、タグ検索で見渡してみると興味深い情報が得られると思います。


<個人・団体のホームページ・ブログでの意見>
サイエンス系サイト
Scinece Based Medicine
2016年1月13日 HPV Vaccine Safety and Acceptance
のようなものがいくつかあり、

反対運動をしている人やグループも熱心に情報発信をしています。「反ワクチン」なものから、ワクチン自体は肯定的しかしHPVワクチンだけ反対という立場もあり、またサーバリックスにはコメントしないけどガーダシルは反対という人もいます。

医療系の論文を熱心に読んでの発言もあれば、他の陰謀論と抱き合わせで(定番の)「不妊になる!」というものもまだ見かけます。

米国:ワクチンに反対をしている団体 Sane Vax

アイルランド:Gardasilに反対をしている団体 R.E.G.R.E.T.

ニュージーランド:Gardaslに反対をしている団体 GANZ

カナダ:Gardasilに反対をしている団体  Canadian Gardasil Awareness Network


HPVワクチンを廃止せよという意見を紹介する記事 Fiona Kirby says an HPV vaccine made her daughter sick. Now she wants it banned


調査や研究を見る場合は、効果や安全性について論文はたくさんありますので、系統レビューから個別の報告を見に行ったり、研究資金も製薬会社のものからまったくの公費のものまでありますので、比較するのも情報精度を高める工夫のひとつです。

例えば、このワクチンは2種類あるので、ひとつだけを採用している国とどちらでもよい、という国と、学校集団接種はどちらかで、かかりつけなら両方選べるという国もあります。

<Systematic Review>
Are the Two Human Papillomavirus Vaccines Really Similar? A Systematic Review of Available Evidence: Efficacy of the Two Vaccines against HPV
Journal of Immunology Research Volume 2015 (2015)



関係者を取材して歩いている村中さんの連載記事が10月にありましたが、


2015年10月20日 あの激しいけいれんは本当に子宮頸がんワクチンの副反応なのか 日本発「薬害騒動」の真相(前篇)
2015年10月21日 子宮頸がんワクチン薬害説にサイエンスはあるか 日本発「薬害騒動」の真相(中篇)
2015年10月23日 子宮頸がんワクチンのせいだと苦しむ少女たちをどう救うのか 日本発「薬害騒動」の真相(後篇)

3月に再び連載記事が公開されました。

2016年3月24日 子宮頸がんワクチンと遺伝子 池田班のミスリード 利用される日本の科学報道(前篇)
2016年3月29日 子宮頸がんワクチン「脳障害」に根拠なし 誤報の震源は医学部長 利用される日本の科学報道(中篇)

(このあと後編に続く)


時系列でみると、この記事のあとに、集団提訴の話があり、3月30日から各社が報じています。

2016年3月30日 時事通信 子宮頸がんワクチン集団提訴へ=国と製薬会社に賠償請求-全国4地裁で6月にも
2016年3月30日 朝日新聞 「人生奪われた」 子宮頸がんワクチン被害、悲痛な訴え
2016年3月30日 読売新聞 子宮頸がんワクチン被害、国と2社に集団提訴へ
2016年3月31日 Wall Street Journal 「副作用」の立証ポイント=子宮頸がんワクチン集団訴訟
2016年4月2日 信濃毎日 子宮頸がん 不信を解くことこそ

(記事のリンクは比較的すぐ消えるのでいまのうちによんでおくといいですよ)


ということで、今は4月春。

続報が出るという名古屋市の調査結果の詳細はまだホームページに公開されておらず、
厚労省研究班が後ろ向きに行う疫学調査の実施状況などはまだ情報が出てきていません。


これまでにもいろいろありましたので、訴訟関連では「報道」のあり方も注目すべき点の1つですね。


報道は後から考えると「偏っていた」だけで、実際には元の情報発信者にだまされてしまった=捏造をしたのは報道ではない、という問題もありました。

MMRワクチンと自閉症の捏造論文事件に関する歴史
医学界からの「追放」,自閉症児の親たちの「英雄視」

アカデミアではサイエンスコミュニケーションのブームがありましたが、、そのときに報道の現場とどうリンクしていたのか今度調べてみようと思います。
ロンドンのコース等なかなか興味深いです。

「科学技術コミュニケーション」再考~メディアを介した科学技術の議題構築に向けて

「報道」の問題については過去にも事例がいろいろあります。

取材関係で出会う方は皆熱心で誠実な人ばかりです。
報道で扱われる情報の精度を皆であげていくことが当事者や社会のためでもあります。
以下の案件も、もともと「悪意」は誰にもないとおもいます。

最初はよくわからないこともあります。センセーショナルが好まれるのも今後もしかたないです。
実際に医療機器や医薬品で早期に注意喚起が必要な案件はこれまでにもこのさきも発生します。

でも、情報が追加されたり状況が変わって問題に気づいたときに、皆で修正ができないと、思わぬ被害者をうんだり、事実と異なる報告へいってしまったりするリスクが常にあります。

アトピービジネスとステロイドの誤解
マスコミ報道に思う
ステロイド物語 マスコミの功罪
薬害肝炎訴訟団の不条理
今は昔、薬害エイズ事件のころ
ポピュリズムの罪
薬害ビジネス-その虚栄と破綻:米国における血友病HIV/AIDS禍の実態
薬害エイズ事件、事実を歪曲し冤罪を生んだ菅直人の罪 素人集団による医療行政の危うさ
薬害エイズ事件の真相
現代の薬害報道に思うこと -タミフル騒動
タミフル報道の虚実

イレッサ訴訟大阪・東京地裁判決の問題点
社説イレッサ…と言う名のプロパガンダ(情報操作)
薬害肝炎一般対策: 補償と支援の区別
薬害C型肝炎訴訟における偏向報道

そのときどきに巻き込まれたり利用される人がいます。
そして、「その後」を報道はどう伝えているのかです。


事件の第1通報者の河野さんは、被疑者不詳の殺人容疑で長野県警の家宅捜索を受け、マスコミから犯人視された
差別、でっちあげ、抗争扇動、真相隠ぺい...犯罪・事件報道でマスコミが犯した"7つの大罪"
日本における報道被害の歴史


集団訴訟については、医療関係者は「妥当なところに落ち着くのだろう」と静観しているかもしれませんが、報道によっては(B型肝炎訴訟などの事例もありますので)PVワクチンが原因で「国内では使用禁止」という展開になる可能性もあるかもしれません。
司法の人がどれだけデータを読んだり医学的なことを理解できるかということではないからです。

因果関係はない・わからない→司法が判断することじゃない、ということになれば、定期の補償枠を大切にしつつ(任意に格下げすると手薄になって誰のためにもならない)積極的勧奨の再開になるのかもしれませんが、それはそれで問題が残っています。

その時点で対象年齢の人はよいとして、「国の調査や判断を待つ様子見」を選択した人たちは、5万円近くかかるワクチンの接種機会を逃したことになります。

「いや、積極的接種勧奨をさしひかえていただけであり、定期接種だったのだから、しなかったのは個人の選択でしょう」といわれるのかもしれません。

さすがにそりゃひどい・・・ということで様子見だった方も公費でどうぞ、となった場合には、おそらく今度は在庫管理でまた混乱するのだとおもいます。それはそれで予防接種制度の信頼をまた危うくする要素ですね。

信頼も実効性もグリップできる組織がない、構造的不幸と不安要素を抱えたまま、現場に大きな負荷をかけたまま迷走を続けなければならないのでしょうか。

対立構造を煽る人や報道は、本来の支援の話に立ち返れなくなるかもしれないリスク、その加害側に立つ責任を常に考えたほうがよいとおもいます。

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