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名古屋市のHPVワクチン接種後調査結果とその周辺

名古屋市が行った"子宮頸がんワクチン"接種後の体調不良に関する調査結果の"速報"関連の話。

医薬品は開発の過程で有効性や安全性を検証していますが、そのサンプル数に限界があるため、より多くの人が使用することになってからでそれまでには把握されていなかった事象や頻度を把握する市販後調査も重視されています。

デンマークなどいくつかの国では、国民の受診/受けている医療の内容の情報を把握するデーターベースがあり、ある医薬品の販売のあとにこれまでとは異なる兆候があるのか?を迅速に検討する仕組みがあります
この仕組みの利点は、特定の医薬品を利用していない人との比較もしやすいことです。

日本ではそのようなモニタリングの仕組みがないため、医薬品の有害事象("副作用")については、医療者・企業・患者等から報告してもらうシステムがあります。

このやり方だと、漏れが生じたり、初期の関心が高い時期には報告が多くなったりメディアで扱われると過剰に報告がきたり(紛れ込みを含む)いずれにしても情報の正確さ(精度)に問題が生じます。この方法の利点は「なるべく多くとりあえずキャッチする」です。
(その後、副反応なのか因果関係と検討されます)

データベースがない場合は、より多くの人に意見を聞く場合、名簿リストをもとにアナログに尋ねて答えてもらうことになり、当然のことながら調査に必要なマンパワー、時間、お金(発送/返送の郵送費〜人件費まで)がかかります。実際にはたくさんの人に協力をしてもらうのは困難が伴います。

という課題があるなか、HPVワクチン接種後の「体調の変化」について独自に費用をかけて調査をした自治体がありました。

調査では問題がない/関心がない人は反応しないという傾向が出ます。回収率が低いと解釈できることも限られてきます。回収率が低いと、問題だ!と思っている人の影響が出やすいということに注意が必要です。また、母集団(調査対象)にもともとある傾向(年齢や性別からくる疾患や症状の特徴)などが影響してきます。

これまでの自治体の調査では、接種をした人の回答の結果をみていました。

(2種類あるワクチンをまとめて論じることに疑問が残りますが、接種した人がどちらを接種したか記憶にない場合もあります。いつ接種したか覚えていないひともいます。 ※思い出しバイアス


12月14日に名古屋市のホームページで公開された情報は、接種した人としていない人を比較する内容になっています。

頭が痛い、熱が出る、めまいがする、というのはどの世代でも男女でもいますし、月経不順となれば、中学〜大学生の思春期では半数以上が経験するような事案です。ある特定の症状が、接種をした人で多くなっているのか?を調査する場合は「対照」群と比較をすることになります。
(データの取り方、解釈の仕方を大学や大学院で学んだ人には基本的なことですが、比較は不要で症状がある人だけに調査をすればいい、という主張をジャーナリストを名乗る人がネットでしていたりしますが)

名古屋市の調査の回収率は半分にとどきませんでしたが、今後につなげる学びはないかと検討が行われているところです。詳細は1月に公表。

11月19日 産経新聞 子宮頸がん調査「43%回収」 名古屋市、l12月に結果公表へ

12月13日 東京新聞 接種有無「症状違いなし」 子宮頸がん、名古屋の調査

12月14日 日テレニュース24 子宮頸がんワクチン 名古屋市が独自調査
 "子宮頸がんワクチンに詳しい医師"コメントあり

12月15日 毎日新聞 子宮頸がんワクチン | 名古屋市調査「手法に問題」 NGOが批判 /愛知
  参考 17日 意見書 掲載

12月16日 Wedge 「因果関係確認できず」名古屋市の子宮頸がんワクチン調査とメディアの曲解

12月22日 QLifepro 子宮頸がんワクチン 接種者に多い症状「なし」-名古屋市が大規模調査の結果を発表

読み比べてください。

これとは別の話ですが、厚労省は疫学研究班をつくり、2016年1月から「青少年における「疼痛又は運動障害を中心とする多様な症状」の受療状況に関する全国疫学調査」を開始。この結果を待ってこの先が決まるのかもしれません。

調査や統計の数字はそれはそれで大事です。

しかし、どのような数字でも特定の個人(そして多くの人)に完全にあてはまわるわけではありません。

症状が非特異的(何にでもあてはまりうる)、多様なために「この症状が共通する」という説明がしにくい場合は、それはそれとして受け入れ、本来の目的である苦痛の緩和や生活が整うということをめざしてできることを前向きに取り組む、、、が最適な道だと思いますが、なぜか"それ以外"を優先する事情がある人たちがそれを難しくしていく状況があります。

厚労省が指定した医療機関では、まず何か問題がないかを調べ、そこで急を要する深刻な病気が隠れていないかを確認することが最初のステップです。そのような緊急のものではないとわかったならば、もっと違う選択肢も含めて症状改善等に取り組めるようになります。
しかし、原因がわからないまま薬が複数出したり検証されていない治療法をすると、効果がなく副反応だけ出てしまったり、薬の相互作用のリスクも懸念されます。
(特定の"症状"に治療薬を使い、反応を見ながら評価するという方法も実際にはあります)
検査で「わからない」「不明」もその先のヒントにもなるのですが。

「○○でないといけない」ストーリーは誰のものか。利用していることに自覚がないままでは、今後も似たようなことがおこるのではないかと思います。
「○○ではない」ことは"決めつけ"と批判しつつ、「○○のはずだ」と決めつけているダブルスタンダードの問題、と、〜にはこれが最適な治療だと検証の得られていない状況で投薬をしてズレていくという問題を誰が作っているのか。「治らない」「未回復」のみをとりあげるのは何のためか。

名古屋の調査結果やWHOのコメントを受けて報道に変化が出てきていると指摘する人もいますが。2016年の動きについて

ある種のとらわれから開放されるブレークスルーは、慢性的な症状に苦しむ人たちで経験されることですが、そのプロセスや効果には個人差があります。その語りを参考に一歩前に進んでいく人たちがいます。
自治体の統計にあるように、受診も何もしないで回復している人もいます。


2015年末まで一連のニュースやネット情報をみてきて残念なのは、医療の中で行う「検査」だけではよくわからない症状で苦しんでいる人がいるときに、短絡的に「原因がないのだ」→「うったえはウソなのでは?」と誤解されたり、疑念を向けられたりすることです。
もともと訴えに見合う身体的異常や検査結果がないにもかかわらず、痛みや吐き気、しびれなど多くの身体的な症状が長い期間にわたって存在することは以前から知られていることです。
その先の可能性をもっている心理的なケアや生活を整える支援については、支援を受ける・医療機関を受診することじたいがネガティブなことであるかのように語られることです。今回の問題にかぎらず、医療者含めてこのような偏見は小さくしていきたいですね。

参考:世の中に根強くあるstigma

そこでがんばって毎日を維持している人たちがたくさんいることを忘れないでほしいです。
検査でわからなくてもつらい症状はあるのです。困っている人は世の中にたくさんいるのです。

参考:10月24日 BLOGOS  子宮頸がんワクチン問題のとてもいい解説 副作用でなくても患者は辛い 医学と医療

どの疾患でも回復のプロセスにも個人差があります。医療はどのみちそれを助けてることが役割で、魔法のように100%すっきりすぐ治せるものは原因が把握されていても少ないなか、信用するな/疑ってかかれ的にしかけていては回復の妨害でしかないわけです。
信じて気持ちがつながって取り組んでいくなかでターニングポイントを見つけるひとたちを取材していくのも報道の役割ではないでしょうか。

不確かな情報だけで断定してずれていくこと、想像だけで他の人の苦しみを軽視すること、ネガティブなことを拡散していくことは何のため誰のためか。考えた先に日本の解決が見えてくるように思う年末です。


『非器質性・心因性疾患を身体診察で診断するためのエビデンス』は救急総合診療科の先生が執筆されています。

■目 次
1 総論:全身概観
2 神経学的所見総論
3 意識障害
4 転換性障害
5 筋力低下
6 歩行障害
7 振戦
8 感覚障害
9 視力障害
10 痙攣発作
11 失神
12 めまい
13 呼吸困難
14 腹痛
15 体重減少
16 皮疹
17 腰痛
18 頸部痛

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非器質性・心因性疾患を身体診察で診断するためのエビデンスシーニュ

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