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HPVワクチン と その周辺 2015年12月28日

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今年最後(かも)な周辺情報の不定期まとめです。

まず、ネットをみていて気づく誤解関係。

HPVワクチン(2種類あります)の話は
1)有効性 → 接種してない群との比較、疫学データ(異常や発症する人、死亡する人などの増減)
2)安全性 → 有害事象報告(ざっくり報告)→因果関係など詳細の検討
        接種していない群との比較、疫学データ
3)費用対効果 →国によってかわる、値段によってかわる、何を計算因子に入れるかでかわる
あたりなのですが、3)はさておき1)2)については市販後の9年のデータを見る限り、10年目にして○○が問題だからやめよう的な話になっていません。
このためWHOが異例のコメントを出しています。

参考(上記英語で読むより日本語解説が読みたい方は先にこちらを)
2015年12月27日 うさうさメモ 2015年12月17日WHO ワクチンの安全性に関する諮問委員会 HPVワクチンの安全性に関する声明
2015年12月21日 Wedge 「エビデンス弱い」と厚労省を一蹴したWHOの子宮頸がんワクチン安全声明

「極論」を言う人たちもいます。
絶対とか断言系というのはどのような論説でもアヤシさがただようわけですが、このワクチンについては「全員に接種を義務化すべき」という極論はあまりみませんが、他の人のアクセス権まで否定してダメだ、なくせという極論を言うひとたちはいます。
(定期接種は“努力する”義務)

「極論」を言うと信頼性を失いかねないわけですが、予防がうまくいってがんになる人が減ると都合が悪い人たちがいたり、検査が減ると困る人たちもいるというご指摘があるので、意図的にそのようなアカウントやブログをつくっていることも想定して情報をみたほうがいいかもしれない2015年12月です。

単純に誤解じゃないの?と思うのは、「検査だけで十分だ」という話。まあ、これも極論です。
ワクチンがつくられる前から、もともと検査で大丈夫だと専門家も国もそもそもそのような説明をしてはいませんが、ワクチン憎しで誰かが言い始めたんでしょうか?
デマの拡散は危険ですね。

単純に検査には限界があるし人はミスをするということなのでありますが、これに加えて、無料(あるいは低額)で2年に一度の検査の案内があっても受ける人が増えていかないという課題があります。
もっとも、8割近い受診率をほこる国でもなんとか少しでも過剰になる検査や費用をおさえようと、HPVワクチン接種率を高めて検査間隔をあける算段をしているわけです(それを検討するくらいのエビデンスが蓄積されている)。

教育も大事ですが、教育だけ時代の方がそこそこ発症したり子宮を失ったり亡くなっているなかで、なぜ昭和な主張をするのかよくわかりません。HPVはコンドームでは予防しきれないことも事実。

さて。なぜ「検査だけで十分」なのか。よくあるメディアのバイアスでしょうか。

ワクチンはそもそも原因をなくしていく感染予防に切り込むツールですが、検査は異常やがんの「発見」であり、その時点で当事者が抱える問題は小さくありません。

2006年の新聞記事。
検診で9割が発見できる

9割.....。
「1人の健康被害も許さない!」「ゼロリスク絶対信仰」の方々には受け入れていただけなさそうな数字です。

どのような検査(技術)でも精度、費用に問題があり、そもそも「検査を受けない人」もいたり、検査の際にとるサンプルの問題、そのあとの判定の問題、結果返しの時点の問題があります。

Liability Issues With the Papanicolaou Smear A Defense Lawyer’s Perspective(1996年)

検査もばんばんすればいいというものではなく、「このあと精密検査が必要」と言われる際の心身の負担など検診にはデメリットも含まれています。つまり最初からリスク「ゼロ」でもない。
検査の過信、検査の過剰も問題な訳です。

婦人科の専門団体の記載:
「婦人科医療におけるインフォームド・コンセント(4)子宮がん検診時」
"細胞診標本が不適切なものであれば、細胞診のみによる検診での偽陰性すなわち癌の見落としは約6%発生すると言われています。子宮がんは早期発見治療によって殆ど治癒する疾患(予後良好)であることが広く知られている現状下で、がんの見落としは訴訟にもなりかねません。細胞診における偽陰性はsampling error細胞採取ミスとdiagnostic error(誤判定)の両者があります。細胞診における偽陰性を少しでも減らすために適切は標本を提出するように努力する必要があります。"

(日本婦人科腫瘍学会)
"受診者・検診者ともに、検診で判る確率と見逃しの可能性について知っておくことが重要です。"

子宮癌細胞診の誤陰性及び逆誤陰性の条件付確率による検討

2014年 子宮頚癌検診における Bethesda system 導入以降の問題点

ベイズって何。。。。な場合は教科書や解説本を読んでからになりますが、体験談はもう少しわかりやすいです。

実際の患者さんの経験。ブログ村等にいろいろな語りがあり勉強になります。

Y K R さ ん の ブ ロ グ 1 ★ 初期治療から再発までの記録です。

インターネットには関連の相談も。解説はさておき疑問や質問はそれなりに参考になることも。

子宮頸がん検診を受けていたのに・・すでに転移がありました。
子宮頸がん検診(細胞診)の信頼性はどのようなものなのでしょうか?
個人病院で子宮頸がん検診(細胞診)を定期的に受けていました。
3年半程前から3ヶ月に一度のペースで検査を受け、結果は毎回クラスⅢaでした。
ある日、性交時の出血があった為、紹介状を書いていただき総合病院で組織検査をしたところ、すでにガンは進行しており遠隔転移が認められガンステージ4b期の診断でした。

子宮癌検診、組織診での誤診はありえますか?
1年ほど前から不正出血がありすぐに婦人科を受診したのですが、子宮癌検診でも異常なしなのでこのままでも大丈夫と言われ安心して、そのままにしていたのですが、
夏頃から出血の量も増え生理との区別がつかない位のときもあった為、別の婦人科を受診し、再び子宮癌検診を受けた結果クラスⅢaとのことで組織診の検査、コルポ診を受けました。結果は扁平上皮癌、微浸潤もあると言われ、すぐに円錐切除をし子宮全摘、もしくは子宮と周りの組織を一緒に取るかを決めると言われました。

このような事例は日々よく聞くのですが、国によっては大きく報じられたりもします。

2015年8月4日 子宮頸がん検診の対象年齢ではない24歳女性が子宮頸がんで死亡

2015年9月5日 結婚から間もない25際の女性が子宮頸がんで死亡
体調が悪いためかかりつけ医を10回受診。しかし、23歳当時、スメア検査の対象年齢ではないため検査が行われていなかった、という事例。同様の記事

英国などいくつかの国では子宮頸がんのスクリーニングの対象年齢が25歳からで、その手前の年齢の人たちが検査を受ける機会がないのはいかがなものか、という主張もあります。
もちろん25歳未満で発症する人はいるのですが、だから20歳からにしよう、18歳からにしようという政策への変更には至っていません。

現在、HPVワクチンの接種率が高く維持されている国では、HPV検査を併用して、3年間隔を5年間隔に、個別にリスクが高い人はより短期間で、パートナーが固定されていてHPVも陰性の場合はもっと検査間隔をあけるようにする方針にシフトをしています。

もともと若年層にHPV検査はやめておこう、となっていたのは10代や20代では感染している状態の人が多く、「陽性」と言われてしまう人が多いためでした。その先の検査も費用がかかり、高リスクHPVが消えるまで何度も検査をする心身の負担なども考慮されてきました。


各国の専門家が効果/安全性/費用の最適化を目指して検討をすすめているわけですので、インターネット検索で根拠不明な情報や報道に煽られないように。

Study Finds Top Online Search Results for HPV Often Are Misleading


最後にその他の情報。

2015年11月5日 HPVワクチンが間に合わなかった世代
接種世代と未接種の世代の差を比較するには医療や疫学データが整っていないと難しいですね。

2015年12月5日 カナダ ケベック州が男子にも公費でHPVワクチン接種
プリンスエドワード、アルバータ、マニトバに続いてケベック州もというニュース。カナダは地域によって予防接種の具体的政策が異なります。

2015年12月16日 米国 9価HPVワクチン 16-26歳男性への接種を承認
9価に切り替えている国は現時点ではあまり多くありません。
最も問題な問題な16型のインパクトが大きいからかもしれませんが。費用が上がることもネックになっているときいています。

2015年12月21日 英国が女子だけでなくハイリスクの男性にもHPVワクチン公費接種へ
英国は女子の接種率が90%近く、男性に接種しなくても効果は十分。拡大するとコストが見合わないという判断です。が、リスクの高いゲイ男性は接種可能にしようというニュース。
「機会不平等」という主張をしてきた、男性の健康擁護グループの活動によるところが大きいです。

日本にも来日しているロンドン大学の予防接種の専門家がNatureで関連記事を載せたのも(日本のことにも言及)12月に大きなインパクトのひとつになりました。

2015年12月21日 Nature The world must accept that the HPV vaccine is safe

2016年以降はどうなるでしょう?

オランダは子宮頸がんスクリーニングの初期検査について、スメア検査をやめてHPV検査に変更。自宅での検査も可能にするという合理化追求路線。ワクチン接種率は年々あがっています。

オーストラリアは2017年から検診開始年齢を25歳にあげ、HPV検査をスクリーニングに導入。

イギリス、オランダ、オーストラリアという他の国よりも予算について厳しい国の合理化ぶりに圧倒されます。

企業のロビーイングや政治家の宣伝パフォーマンスなど入り込む余地無しにみえますが、実際にはいろいろなことがもちかけられている仕組まれているよ、と関係者は教えてくれます。そこでブレない科学や信頼というのが強み。

アジアでは、タイとインドが2017年から国の予防接種プログラムに入れる計画があるそうでニュースになっていますが、公衆衛生部門の公式ページにはまだみつかりません。

2015年12月27日 Universal Immunisation Programme: To check cervical cancer, govt plans to launch HPV vaccine

日本は1月からHPVワクチン接種後の体調変化について疫学調査をするそうです。このデータをもとに接種勧奨の再開を検討するのだとおもいますが。
国の最終判断を待ってから子どもに接種したいとお考えの親御さんは「性交開始を遅らせるメリット」を伝え、その選択肢を守っておくことでしょうか。
(現時点でも対象年齢の人は定期接種のワクチンとして接種が可能ですが)

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