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Channel: 感染症診療の原則
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誰が「判定」してるのか? インフルエンザワクチンニュースから

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昨日のニュースで興味深かったのは2つ。

1つは大学生の4人に1人は「平均」がわからない、ということ。
いまは、大学生になることじたいはそんなに難しくないので、特別な知識層ということではないのでしょうけれど、これが国民全体かもと考えるとウウムとなりますね。たしかに、分数の計算ができない、漢字かけない、英語の過去形からないという人は大学生でもそう珍しくありません。

しかし。ニュースの数字の理解とか、だいじょうぶかなと心配になります。

もうひとつはNHKのインフルエンザワクチンに関するニュース

「過去10年で2番目の大きな流行となっているこの冬のインフルエンザのウイルスは、各地で「ワクチンの効果が低い」と判定されていることが分かりました。専門家は「シーズン途中でも、こうした情報を公表して対策に反映すべきだ」と指摘しています。」

地方衛生研究所は「判定」してたっけ?ですが。
情報公開はよいとして、どのような対策があるんでしょうか。そこは疑問です。おそらく、海外のインフルエンザや公衆衛生専門家にきいても答えはないとおもいます。

ちなみに、このシーズンのウイルスがどうだったかは、2012年11月のIASRにレポートが掲載されます。
前の、2010/11シーズンについては「総分離・検出数11,956株における分離・検出比は、A(H1N1)pdm09が52%、A(H3N2)が32%、B型が15%であった。B型では分離株の9割以上がVictoria系統であった。」と報告されています。



「この冬のインフルエンザは、全国の推計患者数が5日までの1週間で211万人に達するなど、過去10年で2番目の大きな流行となっていて、ほとんどはA香港型のウイルスによるものとみられています。」


日本で生産されているワクチンはちなみに2700万接種分です。


「各地の自治体の衛生研究所は、患者から検出したA香港型のウイルスにワクチンがどの程度効果があるか調べていますが、NHKが取材したところ、これまでに神戸市と横浜市、三重県、佐賀県、それに堺市は、分析した80%以上で「ワクチンの効果が低いと考えられる」と判定していたことが分かりました。」

特定の医療機関で医師が協力をして、検体を地衛研に送っています。それを遺伝子学的に検討しています。

ウイルスを細かく検討するとこのような図になります。


地方衛生研究所は分離株の情報は出せますが、ワクチンの効果の判定はしてなかったとおもいますが・・・
NHKは誰に取材をしてそのような表現になったのでしょうか。

「このうち神戸市では、分析した23株すべてで「効果が低いと考えられる」と判定していました。」

記事を読んでいると、「判定」という言葉はNHKが勝手につかっているようにみえます。


「「抗原」と呼ばれるウイルスに特有のたんぱく質がワクチンに使われたものと大きく異なっていたためとみられています。」

「国立感染症研究所は、こうしたデータを全国から集めているものの、改めて分析し直したうえでないと内容を公表できないとしています。」

そうですね。まだシーズンの途中ですし。


「これについて、日本感染症学会のインフルエンザ委員を務める菅谷憲夫医師は「ウイルスが変異してワクチンの効果が低下したことが、大きな流行につながった可能性がある。シーズンの途中でもこうした情報を公表して対策に反映すべきだ」と指摘しています。」

今のところそのような情報はどこからも公表されていないんですが、変異は常に自然の中でおきてますし、研究は大切ですが、実際の対策としては、だから特に何かするという策もなく、咳エチケットや手洗いをしてくださいということです。


「対策に「予防投与」」

2009年の新型騒動のときには話題になりました。

「ワクチンの効果が低いと考えられる場合、病院や老人ホームなど重症化しやすい高齢者の多い施設で対策の柱となるのが、タミフルやリレンザといった抗ウイルス薬の「予防投与」です。インフルエンザを発症した人と同じ部屋にいたり、会話を交わしたりした人はウイルスに感染しているおそれがあるため、予防的に薬を服用してもらうものです。インフルエンザに詳しいけいゆう病院の菅谷憲夫医師によりますと、インフルエンザは感染してから熱などの症状が出るまでに1日から3日程度かかるため、最初に症状のある人が出てから24時間以内に薬を服用してもらうのが最も効果的だということです。適切に実施すれば、施設や病院での感染の拡大を大幅に抑えられるとしています。ただ、公的な医療保険が使えないため、1週間から10日間の薬剤費として1人4000円程度かかるということです。」

机の上での可能性と、実際に実現できるかどうか、では問題が大きく異なります。

世界のタミフルの7割を日本が使用している背景はこういうところにあるのではないでしょうか。
"Japan has the highest annual level of oseltamivir usage per capita in the world, comprising >70% of world consumption (10). Such high use of oseltamivir has raised concerns about emergence of OSVs with increased resistance to this drug." by日本の研究者です。

他の国はバイオセキュリティとして、タミフルが耐性にならないように、簡単に使用しないという方針を選んでいます。
(基本的に健康な人は投薬をしないで安静にしてすごす)

「ともかく全員にワクチン接種だ!」という米国もすごいです。お金のある国でないとできません。
予防的に抗ウイルス薬を飲ませようというアイデアも実はすごいです。対象等かなり厳密に決めないと乱用につながります。

2009年の新型騒動のときに、英国のこどもたちに予防内服させた結果がEurosurveillanceにありました。そして、英国NHSによる注意として有害事象が多かったという指摘があります。



まあ、健康な人にはもともと不要ですが、高齢、基礎疾患あり、の入院中や入所者の場合どうでしょうか。

集団生活をする高齢者で、インフルエンザ症例に曝露したときにタミフルを投与する根拠があるのかどうか。検討している人たちがいます。
オランダで900人を対象にRCTが行われており、2013年の12月に結果が出ます。
A Randomised Controlled Trial on the Effect of Post-exposure Oseltamivir Prophylaxis on Influenza Transmission in Nursing Homes (PEPpIE)

ちなみに、オランダは高齢者へのインフルエンザワクチン接種率はEU内でトップの80%超えです。


ところで、ワクチンの「効果」の判定ですが・・・・
まず、インフルエンザワクチンは3価のワクチンです。Aが2つ、Bが1つはいっています。
ずれたら全く意味がないかというとそうでもありません。インフルエンザは何も対策をしなければたくさんの人が影響を受け死ぬことはわかっています。特にインフルエンザのワクチンでは感染予防よりは重症化/入院/死亡を減らす、医療者の欠勤を減らすということが重視されています。
多くの国では高齢者や基礎疾患のある人、感染しやすい子どもに接種をしています。

もともと元気だった人が、接種をして、さらに感染して(軽症ですんだとして)「ワクチンしたのになっちまったよ。金かえせよ」というのは最初から評価の視点が違う・・・わけです。
(もともと、自宅に病人や乳幼児もいない健康な成人に接種しましょう!という推奨は出ていないんですが)


不完全ながらも今ある選択肢を複数駆使して(そのうちのひとつがワクチン)、なるべくこのシーズンをのりこえられるようにということで取り組んでいるわけです。同時期に他のウイルス感染症も流行っています。感染した後一番影響の大きなインフルエンザの対策をしておくにこしたことはありません。

ちなみに、「ワクチンの効果」というのは、計算式が決まっています。実際はワクチンの種類によって評価はかわってきますが、関心ある人は WHOの資料で勉強してください。

ワクチン擁護派であってもインフルエンザのワクチンは絶対視はもともとされておらず限界も語られています。
ワクチンだけではないですが、完全否定も絶対視もどちらも思考停止になりますので、そのときどきで最新の確かめられている情報をさがしましょう。
Flu vaccine efficacy: Time to revise public messages?
CIDRAP 2011年11月

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