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Channel: 感染症診療の原則
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PPEについての誤解 と その周辺(業者に騙されないように)

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感染予防には歴史があり、概念や使えるブツなど、その時々で対策が変わっています。

現在の主流は、「標準的予防」、これに接触感染、飛沫感染、空気感染と整理をして上乗せしていくものですが、そこには病原体の特徴が加味されています。


今回のエボラの流行では、「どのPPEがよいのか・必要か」以前に「着脱フィーバー」のようになっていることがということが社会、特に医療部門の現象として興味深いです。

研修会はせっせと着て脱ぐことに終始しており、実際のリスクアセスメントが抜け落ちたり、脱ぐ際に一番重要な手指衛生が抜け落ちていることは反省会などでも指摘があがることです。

一番重要なのはPPEそのものではなく、粘膜の保護、汚染したその手指で粘膜をさわらないことです。
そこまでのリスクが生じうるのかの初期アセスメントです。

PPEは何のためか。
どこまで必要か。

よく分からないことが多い時期には、過小になるよりは過剰にし、エビデンスに基づいてスケールダウンをしていけばよいと考えるのが基本です。
様々な情報がつみかさなってきたら「そこまでやる必要はない」「無駄だ」となり、ごみ処理や在庫管理等別のリスクを抱えます。


HIV感染症も、他人に感染させうるのは血液・精液・膣分泌液・母乳として啓発されたあとも、入院患者を外来の検査に行く場合は布でカバーをしてくるようにといわれたり、HIV陽性の妊婦がお産をするときは、生活用品をすべてもちこませて、退院時は焼却するというマニュアルを作っている病院もそこそこありました。
HIV陽性症例の手術をする際には、天井から床まですべてビニールで養生をするという、B型肝炎の患者ではしない対応もありました。
初期にはよくあることなのだと思い、希望のとおりにしてもいいのではということもありましたが、その病院も今ではそんなことはしていません。ある程度の時間は必要かもしれません。

治療が進んだ今も、放置すれば生命のリスクにかかわる病気であることにかわりはありませんので、「患者が次の瞬間吐血しないとはかぎらないだろう」という医療者がフルPPEを希望するなら、まあとめたりはしないのですが。
(患者さんへの配慮はないのですか、くらいはいいますか)


エボラの話にもどります。

どの程度のものがどのような場面でいるのか、を知っているのは現場ですので、現場ベースで検討が必要なのですが、病院によっては事務方が業者の営業トークを信じて不要なもの、使用する看護スタッフのヒアリングもしないまま購入してしまったところもあるそうです。
そして、実際にほしいものを買おうとなった段階に「もう予算はない」と言われて血管がブチ切れそうになったICNからのレポートがあいついでいます。

現場のことが分からない人たちが検討したり決めるのはやめる、がまず私たちの危機管理です。
(意見を聞くなら業者ではなく現場の専門家に聞きましょう)


業者の販売トークとしては「エボラ用」というのがあるそうです。

 「あ~それはエボラ用じゃないですね」と知識がない人が脅されています。
  そして着用者にとって迷惑なより不快度の高いものを買わされそうになっています。

そんなのいらないのに・・・レベルのものは「これで十分」なものの3倍くらい値段がちがったりします。

もちろん、エボラ用PPEというものはありません。

血液や体液に曝露しそうな病態・行為があるのか、汚染した場合にそれを軽減する手段としてどのようなロジをたてるのか?です。
現場の人には判断がつきます。

マニュアル化すべき点と現場(状況)判断に任せる点と整理するのが対策です。

2014年12月時点では、エボラウイルスに感染してから発熱の症状が出るまでに10日前後、発熱だけの数日、消化器症状が出現。
ピークとなる第10病日くらいまでにウイルス量が増加し、その間は対症療法や支持療法で回復を支援。
重症例には透析や呼吸器の管理が行われるということがあります。

シエラレオネのように平均寿命が男女ともに50歳に届かない、医療アクセスが悪い、成人HIV陽性率が1%を超えるポピュレーションと、先進国での医療を比較することは妥当とはいえませんが、


先進国での知見からは、入院から退院までは3-4週間ですが(テキサスの病院の2例目は入院から陰性確認まで9日間でした)、最後のほうはリハビリや検査結果待ちですので、患者さんは医療者がずっと体液血液曝露しやすい状況(重症)、、というわけではありません。

つまり、理屈上は発熱だけの初期にフルPPEは不要なのでしょうし、逆に体液曝露しやすい時期にはフルPPEに加えて、手袋やエプロンが汚染したらマメにペーパーで拭いたり手袋を変えたり手指衛生をすることのほうが重要、ということです。

難しいことではありません。
体調が悪い人のケアをしたことがある現場の人なら、どのようなシーンなのかの想像がつきます。


これはエボラのウイルスが問題なのではなくて、体液や血液曝露が考えられる時の基本です。
そうなると、安全管理の配慮として重要なのは、手袋のフィット感(テープ固定をしなくてよい)、とびちらない消毒液の使い方、頻回にエプロンや手袋を着脱できるスペースや物品管理の工夫になります。

体液汚染をしたままの状態で医療者が動けば周囲が汚染するので、外側のエプロンや手袋をきれいにしておくことがこのような感染症では一番重要です。

無症状や発熱だけの人に話をしたり、部屋に誘導するだけで周囲にうつったりはしませんので、ここは本来フルPPEである理由はありませんが(詳細はCDCのERでのPPEの説明参照)、2014年の時点では過小よりは過剰の対応にいくのはリーズナブルと許容される話です。

実際にうたがいや確定患者を受け入れる第一種指定医療機関には別の特別な状況がありますので、
必要な物品としては、

1)内側に着る服(動きやすい汗を吸うもの)を着用。使い捨てオペ着でも自分のものでも問題はありません。
2)その上につなぎや上下セパレート(どちらでもいい)のボディスーツ式のものを着ます。
    付着を防止するものなので一定の耐水性があればよく完全防水である必要性や化学防護服である必要はありません。
3)粘膜の保護としてマスク、フェイスシールド(または)ゴーグルがあります。

手袋は2重が基本となっています。

※ゴーグルは視野が狭くなり曇ったりと事故リスクが高くなるので、曝露リスクの高い時に使用(あるいは併用)されています。
※WHOやCDCはどちらかを推奨しており、併用は勧めていません。

実際には、念のためにするならフェイスシールド、体調不良の人で体液曝露リスクの蓋然性があがるならゴーグルがリーズナブルです。


基本はここまでですが、患者のベッドサイドでの看護や医療によって血液や体液の飛散がおこりうる蓋然性の高い場合は、アイソレーションガウンやエプロン、作業時に手袋を追加することが検討されます。

ヒアリングをしにいく疫学調査の際にはアイソレーションガウンは不要ですが、嘔吐処理を手伝うときには当然します。

吐物処理の作業中は当然汚染するという前提で使います。そして処理の最後には、そのままあちこちに移動をせず、なるべく最小限の範囲にとどめ周囲を汚染させないように脱ぎます。

アイソレーションガウンやエプロンは素材によって少し異なる点があり、例えばある程度の時間はその表面維にとどめておけるものもありますが、ビニールの場合は下に流れていきますので、防水性が高いというメリットはありますが面積としては流れて落ちたりと拡散することがあります。
このため、防水性が重要というよりは、汚染をしたときにいかにマメに交換したり手指衛生ができるかが課題となります。

ですから、完全防水の化学防護服ではなく一定の耐水性を保ったスーツに1次予防のエプロン、ガウン+手袋を使いやすいようにすることが重要なわけです。


海外のニュースにみるPPEとの状況の違いとしては、

国境なき医師団のスタイルは、一度重症患者ゾーンに入ると、一定時間出てこれず、中には軽症者もいるが重症者もいて、重症者に合わせて完全防護になっています。

そして、外側のエプロン類は再利用をするために、次亜塩素酸水のタンクをしょって外側を洗い流す人(スプレイヤー/Hygienist )が消毒液をかけてから脱いでいく、、という方法を採用しています。
当然、足元は水浸しになってもいいという前提です。

ドイツの大学病院でも、脱ぐ前にシャワー室で消毒剤入りのフォームで外側を洗い流す方法がとられているので、防水性の高いものが採用されていますが、中の医療者の不快度や作業効率を考えて、顔や頭部の防護具はマスクやゴーグル不要としていますし、またコミュニケーションがとれるようマイクとイヤホンのヘッドセットが配備されています。
シャワールームですから汚水の管理もなされています。

日本の病院でここまでのものは不要というか、かえって周囲が汚染する、シャワーで流すわけではない状況で購入する理由がありません。

買わなきゃよかったね・・・的なものは今でもありますが。

業者が営業をかけて、全国に買わせるとか、国の予算をつけさせるというようなことを姑息にやりますので、皆さん、本来使うべきところで使う予算を大事にしましょう。

医療の国家資格を持っている人なら騙されないと思いますが、事務方は気を付けたほうがいいです。

要らないものは買わないようにしましょう。
置く場所にも困ります。

使いにくいものや使えないものは患者さんのベッドサイドや環境の汚染(2次感染事故につながります)、現場負荷の原因になりますので。

つなぎ式や上下セパレートのものも、新型インフルの時の在庫がある病院は、それで十分です。
(ゴムが劣化するマスクやゴーグルは期限切れのものは使えませんが)

完全防水の化学防護服をごくわずか購入した病院は、ヘリポート用とのことでした(エプロン類が風で巻き込まれる可能性があるので)

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