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Channel: 感染症診療の原則
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ネブラスカの症例も回復(エボラウイルス感染)

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米国に搬送(日本の制度上の用語は移送ですが)された50代医師も無事回復し、24時間開けた血液検査でウイルスはいない、と確認されたとの報道がありました。
これまでの知見から、早期に電解質管理などをしていけばマネジメントできそうだということがわかってます。


当事者の体験から学ぶことは多いですが、それが医師となると視点も広がるわけで、今後の参考になりますね。

アトランタのエモリー大学病院ではなく、この医師が搬送されたのはネブラスカの病院でしたが、それは誰が決めたのだろう?ということは疑問でありました。

記事には患者コメントとしても紹介されています。

英国はRoyal Free Hospitalに症例を集め集中的に管理する方式ですが、米国は特に指定病院制度はありません。

日本は関空近くに、りんくう総合医療センター、成田空港の近く(でもないですが)成田赤十字があり、(羽田の近くで通常活躍してるのは東邦大森ですが)都内には、国立国際医療研究センターが特定感染症のベッドを持ってます。

また都内では都立墨東、駒込、公社になった荏原の3つが一類対応になってます。

愛知県のセントレア空港の近くでは、来年オープンする常滑市民病院の新病院が2床、特定感染症の病床を準備してます。
市の議事録はこちら


一類を受け入れる第一種指定医療機関は
国内に44ありますが、ネットで公開されている過去の会議議事録や行政評価報告書をみると、「まだ指定してない自治体がある」という評価になってます。
つまり、各自治体に1つ作りなさい的な政策なのかもしれません。

昔のものですが、"感染症対策に関する行政評価・監視 結 果 報 告 書 - 総務省"(PDFで公開されてます。関心ある方は読みましょう)
などを読むと背景を理解できるかもしれません。


いずれにしても、それは救急車が県境をこえないからなのかわかりませんが、無いところは第二種がとりあえず受けて、場合によってはほかの第一種に移送するのかも的に書かれています。
その際に問題になるのはいくつかありますが、その手段と方法を前持ってお互いが合意してるか?は問われます。


ちなみに、感染症対応のベッドをもつ病院には、1床あたりで予算がついてます。
行政事業レビューシート(結核感染症課)

予算をもらいながら、想定されてる感染症診療はしませんという理屈は成り立ちませんが、実際には「そうはいっても、感染症の専門の医師もいないしいても一人で他の業務でめいっぱいです」とか、「医師は勉強したが、ケアを担当する看護師のシフトや訓練がまだできてません」というところもあります。
いつくるかわからない感染症へのリアリティや危機感が無い中で準備というのも実際たいへんです。

日本でいうところの一類感染症について、英国は専門機関に集めスタッフがいつでも動ける体制を選択し、米国は基本を守ればどこでも見ることができるというスタンスです。
(他の国は現在知り合いに聞いているところです)

編集長が直接見聞きしたのは、オランダのライデン大学医療センターが、マールブルグ出血熱の症例を受け入れたときの話です。

地理的にも、長期休暇の取れる社会ということもあって、アフリカ渡航歴の患者の評価に慣れているといえばそうですが、結果としてスタッフへの感染などはありませんでした。(そのときのスタッフがレクチャーをしたので、話の内容がとてもリアルでした)

以上は、設備や人員や感染管理体制の話ですが、別の問題もあります。
それは治療体制です。

「均てん化」という言葉があります。
例えば、エイズ診療の拠点病院は、薬害エイズ訴訟をきっかけに、どの地域でも同じように質の高い医療を保証して欲しいというコンセプトがあります。
がん医療でもたくさんの医療機関が指定されてます。
個別性も大きいので、質の高い治療の定義は難しいですが、すくなくとも診療拒否にあわない、診る医師がいる目安にはなります。
そして、治療薬は国内で承認されていればどこでも使えます。

ここで話を一類感染症にもどしますと、
例えばラッサやクリミア・コンゴにリバビリン…は海外での知見と日本に薬物がある、という状況ですが、

エボラの場合は状況として、これまでに欧米で使われたZiMapは国内にはなく、回復者の血液から作った製剤もありません。
いっぽう、欧米では使われていない、日本のメーカーが新型インフルエンザ用につくった抗ウイルス薬があります。
こちらは、ヒトでの臨床試験をしていますので、まるきりヒトでの情報がないわけではありません。
ただし、卸に電話してすぐ持ってきてもらえる薬剤ではありません。

本薬剤については官房長官が世界保健機関(WHO)からの要請があれば、未承認薬提供の用意があると8月にコメントしています。

日本の一類対応医療機関が使用する場合は、国の、国内の、医療機関のルールや専門家判断になります。

ところで、今回のネブラスカの症例では別の薬剤が使用されています。

"Sacra was treated with an experimental drug called TKM-Ebola made by Tekmira Pharmaceuticals Corp, and also received a "convalescent serum" made up of antibodies taken from the blood of U.S. Ebola survivor and fellow missionary Dr. Kent Brantly."
ロイターの記事

日本の一類対応施設は職員の感染予防訓練はしていますが、官房長官にはWHO提供だけでなく、国内でどうするのかということも説明してほしいね、ということが関係者での話題です。
そのうち会議が開かれて資料公開などもあるかもしれません。

エイズの拠点病院も看板を下ろすところもあり、がん拠点も指定取り消しがあるそうですが。
課題が多くてたいへんと嘆くだけでなく、国や地域の感染症危機管理について考え工夫をし直すチャンスだととらえる人が増えるといいですね。
(議員さんにも提案してみよう…)


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