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Channel: 感染症診療の原則
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2類の根拠

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「なぜB型肝炎は2類なのか」というコメントや質問が複数ありました。

先日開かれた予防接種部会で、予防接種法の改正案のたたきだいとして2類に位置付けられたHPVワクチンとHBVワクチン。
これは「個人予防」が主だからということが報道記事にありますが、それでいいのか?という話。

このことに、専門団体がどのような反応をしているのでしょうか。いまのところきいていません。
(ご存知でしたら教えてください)

例えば、肝臓や感染症が専門家。
婦人科系の腫瘍や性感染症に関わる専門家。
子どもや思春期の健康に関わる専門家。

これまでも、それぞれのワクチンの位置づけがなぜそうなったのかということが国民に根拠をもって示されていませんでした。(というか、ある時期からあらたに認可されたらそれは随時任意になっていた)

医療行為については、通常は指針のような文書があり、それぞれに根拠となるリファレンスがつきます。
(日本語ではまれに「ガイドライン」なのにリファレンス無しという恐ろしい文献もあるそうですが)

平成22年7月 B型肝炎ワクチンについてのファクトシートと、これに続く作業チーム報告書

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【B型肝炎ワクチン】

■セレクティブワクチネーション・母子感染防止対策

現在日本で実施されている母子感染防止対策は複雑で、HB ワクチン接種漏れによる母子感染例が目立っている。また、現行の母子感染防止対策だけでは、父子感染や保育園などでの水平感染は防止できない。

■公共経済学的な観点
? B型肝炎(HB)ワクチンの医療経済的評価
HB ワクチンについて公共政策的論点となるのは、ユニバーサルワクチネーションかセレクティブワクチネーションの選択、キャッチアップワクチネーションの導入の可否である。これらは各国のキャリア率、HBV 感染によって引き起こされる疾患、特に肝硬変や肝がんによる死亡数、医療費、ワクチンのコストなどにより大きく事情は異なる。

このような公共経済的視点から行なわれる研究は、マルコフモデルを用いたシミュレーションが多く、架空のコホート集団に対し複数のシナリオの増分費用対効果などを推定し、公共経済的優位性を判断している。しかし過去 10 年間に先進国において、このような視点から行なわれた研究はそれほど多くはない。その理由として、多くの先進国では既にユニバーサルワクチネーションが導入されているか、あるいは有病率の低さから導入は効率的ではないと判断されているからである。

しかし近年欧州においてユニバーサルワクチネーションを導入していない国々では、移民の増加、国外での感染等によりB型肝炎罹患者が増加し、新たな対応を模索している。また米国に居住するアジア太平洋地域出身者における有病率は高いものがあり、成人へのワクチネーションが推奨されている。

日本と同じくセレクティブワクチネーションが行われているアイルランドでは、1997 年から2005 年にかけて HBV 感染者が 30 倍に増加した。B型肝炎を含む 6 種類の混合ワクチンを用いた場合、セレクティブワクチネーションに対するユニバーサルワクチネーションの増分費用効果比は€37,018/LYG(1 年の生存延長を獲得するのに€37,018 の追加的費用がかかる)であった。
アイルランドには定まった追加的費用の閾値(1 年の生存延長を獲得するために費用はいくらまで許
容できるか)がなかったが、諸外国の閾値を参考にユニバーサルワクチネーションは費用対効果が良いと結論している。

米国のアジア太平洋地域出身者では成人の約 10%が HBV に感染している。成人に対する 4 つの介入方法(?ユニバーサルワクチネーション、?HBs 抗原のスクリーニング検査と陽性者に対する治療、?HBs 抗原のスクリーニング検査と陽性者に対する治療+濃厚接触者への検査とワクチン接種、?HBs 抗原、抗体のスクリーニング検査と必要者へのワクチン接種、治療)の現状に対する増分費用効果比は、?で$36,088/QALY(質調整生存年)、?で$39,903/QALY であった。米国でしばしば参照される閾値は$50,000/QALY であるため、これらの介入は医療経済的に受け入れられるとしている。

? 厚生労働科学研究班による分析
わが国で行われているセレクティブワクチネーションと、ユニバーサルワクチネーション(現行のセレクティブワクチネーションに加えて、感染予防措置の対象外となっている児に対してもワクチン接種を行う)について、先行研究を参考に、図 2 に示すようなマルコフモデルを構築し、QALY(quality-adjusted life year)及び医療費の比較を試みた。

分析では 100 万人の出生コホートを設定し、厚生労働科学研究「ワクチンの医療経済性の評価」研究班(班長 池田俊也)で定めた「ワクチン接種の費用対効果推計法」に従い、分析期間は生涯、割引率は年率 3%(変動幅 0〜5%)とした。モデルの構築にあたって必要な疫学情報および効用値情報は、国内外の先行研究を参考とし 19,20,26-39)、わが国の実情に適合した変数を選択した。

B型急性肝炎の新規発症者数については、DPC データに基づく推計値より、年間 2,280 人(推定
の下限、上限は 2,000〜2,500 人)とした 。費用に関しては保健医療費支払い者の視点(保健医療費のみを考慮)で分析を行い、妊婦の抗原検査と対象児への予防プロトコールにかかる費用、非対象児に対するワクチン接種にかかる費用、HBV に関連した疾患群(急性肝炎、慢性肝炎、劇症肝炎、肝硬変、肝細胞癌)にかかる医療費を含めた。但し HBV に関連した疾患群については、医療費に関する充分な情報がないため、患者調査、社会医療診療行為別調査等を用いた推計値及びエキスパートオピニオンにより求めた。なお社会の視点(保健医療費と生産性損失を考慮)における分析は、関連する疾病の経過が複雑で生産性損失の推定が容易でないことから、本分析では行っていない。

1人当たりの QALY は、セレクティブワクチネーションで 30.9772QALY に対し、ユニバーサルワク
チネーションで 30.97812QALY と、0.00092QALY の増分を見た。1 人当たりの保健医療費は、セレ
クティブワクチネーションの 1,824 円に対し ユニバーサルワクチネーションは 18,691 円と、16,867 円の増分であった。これより増分費用効果比(ICER)は\18,300,515/QALY と推定された。医療費では差分が\-712 とユニバーサルワクチネーションによる削減効果が見られた。乳児(2009年の人口で 107.8 万人)にユニバーサルワクチネーションを実施した場合、接種費用として、189.5億円が発生する。しかしワクチン投与によって HBV に関連した疾患群(急性肝炎、慢性肝炎、劇症肝炎、肝硬変、肝細胞癌)にかかる医療費を 7.7 億円削減できるため、総コストの増分は 181.8億円となる。

本分析では算出に複数の推定値を用いたが、なかでも結果への影響が大きいと思われる急性肝炎発症者数、及び推計値の粗い HBV に関連した疾患群(急性肝炎、慢性肝炎、劇症肝炎、肝硬変、肝細胞癌)にかかる医療費について感度分析を行った(表 3)。急性肝炎発症者数については推定値の下限の 2,000 人および上限の 2,500 人、医療費については±50%の幅で検討したところ、急性肝炎発症者数では 16,625,040 円〜20,966,051 円/QALY、医療費では 17,914,120 円〜18,686,911円/QALY であった。

その他に分析結果に大きな影響を与える因子として、ワクチン接種にかかる費用があげられる。
本分析ではわが国の保険収載情報をもとに\18,696(1 回当たり 6,232 円)を推計値としたが、先行研究を例に取れば、アイルランドの研究では€36(現行の 5 種混合ワクチンと HBV を含む 6 種混合ワクチンの差額)、米国の研究では接種費用を含めて$56 としている。そこでワクチン接種費用を変化させた場合の増分費用効果比を求めたところ、ワクチン接種費用が 5,600 円以下(1
回当たり1,868円以下)であれば増分費用効果比が500万円/QALY以下となると考えられた(図3)。

さらに、予防接種費や出生数などの条件が今後も不変であると仮定した場合の、ユニバーサルバクシネーションが浸透し定常状態となった状態での単年度費用推計を行った。(注:単年度費用推計では、割引率は適用しない。)その結果、一年間でワクチン接種費用は約 189.5 億円増大するものの、HBV に関連した疾患群の保健医療費を 28.6 億円削減できるため、総コストの増大分は160.9 億円となる。

本分析で用いたモデルより、HBV に起因する病態の生涯リスクを推定することができる(図 4、5)。これによれば 100 万人の出生コホートを想定すると、ワクチン接種や予防プロトコール等の措置を全くとらない場合は肝硬変が 112 名、肝細胞癌が 146 名、セレクティブワクチネーションでは 86 名、76 名、ユニバーサルワクチネーションでは 11 名、14 名と推定された。 罹患数は多くはないが、それでもユニバーサルワクチネーションの導入により、HBV に起因する肝硬変、肝細胞癌の生涯リスクをセレクティブワクチネーションの 1/8、1/5 程度に軽減する可能性が示唆された。
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・・・・で、なぜ2類になったのか会議を傍聴していないのでよくわかりません。
国内で野生ウイルス感染のないポリオが定期で、HBVの中まん延国とされている、周囲を流行国にかこまれた国でなぜHBVが任意なんでしょうね。


HPVワクチンの位置づけは各国でいろいろな意見があります。
平成22年7月 HPVワクチンについてのファクトシートと、それに続く作業チーム報告書があります。

HPVワクチンの場合、費用対効果は有病率の他に、検診制度、検診間隔、検診で採用する検査によって他のワクチンよりもさらに複雑な検討になりますが、作業チーム報告書が参考になるとおもいます。

疫学データがプアなのは他の感染症と同様。Evidence Basedにする努力もあわせてしないと。

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