第7回若セミ Q&A です。山本先生「初期研修医が知っておきたい上気道感染症診断」金城先生「咳、止まらない咳、止められない咳 ~咳へのアプローチ」
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1.質問者 : 医師 小児科 60代
山本先生/質問内容 : 日本の診療報酬システムの問題で、一人の患者に長時間説明すると収益が下がります。
抗菌剤をいつも処方されるのに今回は何故処方しないのかの説明に時間をかけると経営者から疎まれる医療機関が多いようですが、先生はどうお考えですか。
回答:一人一人に説明するのが大変だから今まで説明されてこなかった。まさにそのツケを払う時が今,来ていると思います。とはいえ,患者さんの予備知識も様々な程度です。
1)テレビや新聞,雑誌などでかぜに抗菌薬はいらないという話を聴くようになり,本当はいらないと思っているが処方されるのでもらっている人
2)よくわからないが医者が処方するなら飲むし,いらないと言えば飲まない人(先生におまかせ)
3)かぜに抗菌薬が効くと信じている人
などだとすれば,とりあえず1),2)の人たちへの説明はそれほど困難ではないと思います。3)の人は長年の積み重ねがあるので,1回説明しただけでは行動変容は難しいと思いますが,短時間の説明を何度も,色々な人からされれば,行動変容の機会がいつかくるかもしれません。
2.質問者 : 医師 内科 50代
山本先生/質問内容 : 今までは山本先生のご講義のように、咳、鼻水、咽頭痛がほぼ同時期に生じた場合、かぜと診断していましたが、COVID-19の流行拡大により、かぜらしいけどCOVID-19はどうだろうというケースが増えてきているように思います。
市中感染が増えてきていると報道されていますが、風邪症状でのSARS-CoV-2抗原検査やPCR検査の適応はいかがでしょうか(地域差はあると思いますが)
回答:成人のCOVID-19では鼻汁や強い咽頭痛は少ない印象があります。講義中にもお話したように,小さい子どものCOVID-19は比較的少ないので,子どもの鼻風邪がうつったような経過で鼻汁が症状のメインの時にはCOVID-19の可能性は低いだろうと思います(もちろん,絶対的なものではありませんが)。
患者本人が軽症で高リスクでなく,自己隔離ができるなら,症状軽快から48時間かつ発症から1週間の長い方の期間を休んでもらうのがよいと思います。検査の偽陰性の問題もありますし,COVID-19以外なら人にうつしてもよいという道理もありません。
患者自身または同居人に以下のような高リスク者がいれば,優先的にSARS-CoV-2の検査を検討した方がよいと思います。
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表 COVID-19の重症化の高リスク者
・高齢者(特に60歳以上)
・慢性閉塞性肺疾患
・心血管疾患(心不全,冠動脈疾患,心筋症など)
・2型糖尿病
・肥満(BMI30以上)
・慢性腎臓病
・免疫不全者(ステロイド投与患者や固形臓器移植後など)
・担癌患者
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3.質問者 : 内科医師
山本先生/質問内容 : 抗生剤のいらない細菌感染症というお話がありましたが、例えばどんな臓器のどんな起炎菌での感染症でしょうか? 例を教えていただけると嬉しいです。
回答:気道感染症であれば,急性副鼻腔炎の一部がそうですし,細菌性咽頭炎も抗菌薬の効果は有症状期間を平均1日程度短縮する程度です。他にはドレナージが良好な急性胆管炎も従来考えられているよりは抗菌薬が必要な期間は短くてもよさそうです。また,急性憩室炎は軽症であれば抗菌薬を投与してもしなくても予後は変わらないというRCTも複数あり,軽症なら抗菌薬不要としている海外のガイドラインも存在します。
4.質問者 : 医師 30代
山本先生/質問内容 : 高齢になると風邪をひきにくいとのことですが、免疫学的な理論などありますでしょうか?
回答:明確な理由ははっきりしていません。それまでの人生である程度の免疫が形成されているか,子どもと比べるとウイルスと接触する機会が少ないなどが考えられます。
5.質問者 : 医師 内科 50代
山本先生/質問内容 : 感冒の自然経過は、対症療法によってかわるのでしょうか。咳止め、抗ヒスタミン薬、解熱剤の入った総合感冒薬を使用していると、二峰性発熱や症状増悪がわかりにくくなるような気がしますが。
医師の処方薬や市販薬がかえって経過をわかりにくくしているといったことはあるでしょうか
回答:あるかもしれませんが,例えばウイルス性上気道炎後に細菌性副鼻腔炎を合併した場合に,解熱鎮痛薬を飲んでいたとしても抑えきれない症状(発熱や痛み)があることが多いと思います。
6.質問者 : 研修医
金城先生/質問内容 : 肺炎のみで胸痛を生じることはあまり考えられないのかな、と考えていたのですが、生じるものなのでしょうか?
回答:胸膜直下まで肺炎が及ぶ、もしくは肺炎随伴性胸水・膿胸を合併すると胸痛を伴います。
7.質問者 : 医師 内科 50代
金城先生/質問内容 : 金城先生:感染後咳嗽は成人に見られるような印象がありますが、小児ではいかがでしょうか。
小児でもステロイド内服をトライすることがあるのでしょうか。
回答:小児の診療をしていないので実臨床での感覚がないのですが、日本呼吸器学会の咳嗽・喀痰の診療ガイドライン2019の小児の項には、「3週間以上の咳嗽の原因は小児では喘息・アレルギー性鼻炎や副鼻腔炎による後鼻漏症候群、百日咳やマイコプラズマ肺炎などの下気道感染症、受動喫煙による咳嗽がある」、と記載されており、感染後咳嗽はリストされていません。また、「小児の急性呼吸器感染症による咳嗽の多くは1~3週間以内に自然軽快する」、とあり、3週間以上つづく咳嗽を来すことは少ないようです。
感染後咳嗽にステロイドは使用しません(自然軽快するので)。遷延する咳嗽が喘息によるものと考えれば、診断的治療としてステロイド内服もしくは、ステロイド吸入薬というお話をしました。
8.質問者 : 医師 内科 二年目
山本先生/質問内容 : コロナ患者で入院となった方で咳が遷延する場合、退院は可能でしょうか
回答:咳は普通感冒でも感染後咳嗽として3週間程度残ることがありますので,新型コロナでも同様に咳は残ることはあります。解熱して呼吸器症状が改善傾向であれば退院可能と判断しています。
令和2年7月17日の厚生労働省健康局結核感染症課の事務連絡「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律における新型コロナウイルス感染症患者及び無症状病原体保有者の退院の取扱いに関する質疑応答集(Q&A)について」より,以下のQ&Aもご参考にしてください。
https://www.mhlw.go.jp/content/000650157.pdf
退院基準に関するQ&A(令和2年7月17日版)
③ 症状の軽快とは何をもって軽快というのか。基本的には担当医の判断ということでよいですか。
(答)
「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律における新型コロナウイルス感染症患者の退院及び就業制限の取扱いについて(一部改正)」(令和2年2月6日 健感発0206第1号厚生労働省健康局結核感染症課長通知)の「第一 退院に関する基準」 において、「症状軽快とは、解熱剤を使用せずに解熱し、かつ、呼吸器症状が改善傾向にあることとする」とお示ししています。
なお、個別具体的な症状軽快の判断については、お見込みのとおり担当医の判断になるものと考えます。
⑫ 「解熱剤を使用せずに解熱し」とありますが、呼吸器症状など他の症状については、 対症療法薬を使用していても「軽快した」とみなせるのですか。
(答)
担当医の判断で「軽快した」と判断されるのであれば、必ずしも対症療法を全て終了する必要はないものと考えます。
9.質問者 : 医師 内科 50代
金城先生/質問内容 : 百日咳の頑固な咳に効果的な薬は何を使えばよいでしょうか?
回答:百日咳の咳は日常生活への支障が大きいですが、通常の鎮咳薬が劇的に効くことは稀であると小生は感じています。2014年のCochraneレビューでは、鎮咳薬の有効性を示す質の良いエビデンスは乏しかったと結論しています。実際にはデキストロメトルファン、リン酸コデイン、漢方などを試すことが多いです。
10.質問者 : 研修医
金城先生/質問内容 : 喘息を診断する時には呼吸機能検査などをすべきということでしょうか?
回答:喘息のGINAガイドラインでは、喘息の診断には呼吸機能検査を原則行うこと、としています。理由は喘息の過剰診断と過少診断を避けるためです。ただし、咳き込みが激しい場合や、高齢者などはうまく呼吸機能検査ができないことも多いので、喀痰好酸球やFENo、ピークフローの日内変動などを参考にします。
11.質問者 : 医師 内科 50代
金城先生/質問内容 : 症例4では白湯で症状が改善していますが、なぜでしょうか?GERDの可能性はどうでしょうか?
回答:この方は、気温が下がると咳が出るとおっしゃっており、白湯は喉を温めることによって過敏となった咳回路が落ち着くのでしょう。間質性肺炎が背景疾患となっていますが、講演の最後にご紹介したCough hypersensitivity syndromeという咳が出やすくなってしまった過敏状態になっているものと思われます。
GERDと呼吸器疾患の関連は色々指摘されています。代表的なものとしては喘息、間質性肺炎とGERDが言われています。PPI治療で喘息や間質性肺炎が良くなるというエビデンスは確立していません。
12.質問者 :
金城先生/質問内容 : 先日、日本内科学会雑誌で、咳嗽が(2週間以上)続く場合は、抗菌薬が投与されているという記載がありましたが、これは一般的な実感でしょうか?さすがにそんなことはまともな診療現場ではないように思いますが・・・
回答:咳は日常生活への支障が大きい症状であり、患者も医療者もなんとか症状をよくしたいと思うのでしょう。「様子を見ていれば治ります」、という説明より、検査・処方するという流れになりがちで、気管支拡張症や抗菌薬が強い根拠がないまま処方されがちなのだと思います。また、検査結果がすぐには出ないマイコプラズマや百日咳を治療しておかないといけないという考えから、マクロライドを急性上気道炎に処方してしまうのかもしれません。
13.質問者 :
山本先生/質問内容 : 先ほどの続きです
しかし、咳嗽が1週間持続すると抗菌薬が処方されている患者が多く、2週以上継続すると、ほぼ前例で複数の抗菌薬が処方されているのが日本の現状である。(原文まま)
山本先生/回答:(13とまとめて)原因にもよると思いますが,2週間以上続く咳ならば結核をそろそろ疑いたいところですので,結核の鑑別をせずに抗菌薬投与は避けて欲しいです。
14.質問者 : 医師、内科、30歳台
金城先生/質問内容 : 百日咳とマイコプラズマの鑑別を教えてください。
回答:マイコプラズマも百日咳も子どもから成人への感染の広がりがあること、上気道症状(鼻・咽頭痛)を伴うことが共通項です。上気道炎症状は両者とも抗菌薬なしで自然軽快するのも同じです。マイコプラズマは下気道感染(肺炎)を起こすこともありますが、必ずしも抗菌薬を投与しなくても治るとされており、病歴での鑑別は困難かと思います。
家族で発症した場合、誰かがマイコプラズマ、もしくは百日咳としっかり診断されていれば他の家族も同じ病原体だと推測できるでしょう。地域の感染状況の情報も参考になります。
呼吸器外症状(溶血、中枢神経、皮疹、肝機能障害)があればマイコプラズマを示唆するでしょう。私見ですが、嘔吐やWhoopingを伴う咳発作はマイコプラズマでは少ない感覚を持っています。
15.質問者 :
山本先生/質問内容 : 山本先生が講義中に咳をされていたのが気になりましたが、咳払いのような症状から後鼻漏の可能性はありますでしょうか?
回答:ご指摘の通り,後鼻漏と気管支喘息もちなので,年中咳があります。今のご時世,紛らわしくてすみません。