2015年10月16日に行われた、第6回若手医師セミナー2015、須藤先生の水・電解質・輸液のQ&Aが出来ました。以下、ご覧下さい。
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質問1:
質問者 : 20代研修医
質問内容 : 今回の講義とは少しずれますがアニオンギャップに関する質問です。
病棟で血ガスを取ると、アニオンギャップが縮小した検査結果によく出会います。
アニオンギャップの縮小はブロン酸中毒程度しか知らないのですがこれはどう解釈すればよいのでしょうか?
通常アニオンギャップに相当するのは大部分がアルブミンとされています(アルブミンは分子量約6万のpolyanionです)。したがって低アルブミン血症はアニオン・ギャップ低値の原因となります。それ以外にはラボ・エラー,高Cl性アシドーシスなどと言われています。
質問2:
質問者 : 医師 総合診療科 20代
質問内容 : 総合診療科に所属する医師3年目です。
高齢者の低Na血症に遭遇する機会が多いですが、明らかな原因が不明なもののNaは130前後と安定し無症候性の場合、reset osmostatを疑うことがあります。そのような場合、自由水負荷試験などを施行して診断をつけにいくかなど、須藤先生のアプローチを教えていただけると幸いです。よろしくお願いします。
まず尿の浸透圧あるいはtonicity(つまり尿Na+Kの値)をみます。それでfree waterの排泄の状況を見てみます。尿(Na+K)x2が100を超えていれば「最大希釈となっていない」ことから何らかの原因でADHが分泌されていると考えます。その多くは有効循環血漿量低下ではないかと思います。例にあげられたような無症候性の軽度の低Na血症に対してreset osmostatを確定診断するために,あえて負荷試験まで行ったことはありません。
質問3:
質問者 : 医師 3年目
質問内容 : 舌乾燥、腋窩の乾燥は細胞内液の評価かと思っておりましたが、皮膚ツルゴール同様に間質の水をみているのでしょうか?そのような箇所の乾燥をみた場合の輸液は何を選択すべきでしょうか?
身体所見での体液評価は原則として細胞外液の評価と考えた方が理解しやすいと思います。したがって治療としては基本的には等張液を使うだろうと思います。もちろん血液検査の結果も参考にしますが。
質問4:
質問者 : 医師 内科 30代
質問内容 : 高齢者の体液量を評価するとき
脈はbeta blockerが入っていると変わりますし、胸部X線ではなかなか撮像条件などで見え方が変わりその他の評価も難しく客観的な評価は難しいと感じております.
頸静脈もなかなか見づらいケースもあると思います.
何か客観的に体液量を評価する方法はないのでしょうか. 宜しくお願い致します.
体液量の評価する方法として残念ながらひとつだけで充分な方法はありません。いくつかの評価項目を組み合わせて総合的に判断するしかないと思います。
質問5:
質問者 : 医師 内科 50代
質問内容 : 間質の浮腫と高齢者で見られるような重力性の下腿浮腫の違いは、あるのでしょうか。体重が増加していく浮腫と、体重が変化せず水が移動するだけの浮腫との違いでしょうか。
質問の意味がよくわかりませんが,基本的には浮腫は細胞外液(間質)の体液過剰と考えればよいと思います。寝たきりの患者などで,重力にしたがって身体の下方に浮腫がみられることはよくあります(ややこしいことに,そのような患者では体重が測定できないことも多い)。基本的には体重増加を伴っているのではないかと思いますが。体重変化がなく移動しているだけのこともあるかもしれません。
質問6:
質問者 : 研修医1年目
質問内容 : Na摂取不足では低Na血症にはならないんですか。
低Na血症は「相対的」あるいは「絶対的」な水の過剰によって起こることですから,Na摂取不足でも続発して水の貯留が起これば低Na血症になりえます。
質問:7
質問者 : 医師 老年病科 30代
質問内容 : 細胞外液の評価も難しいと感じています.
Physicalでの評価ははっきりあるものはあると評価できますが
やはり「程度」の評価が難しいと思います.
何かコツはありますでしょうか.
これは難しいです。私も未だに試行錯誤です。大雑把に軽度,中等度,重症程度にしかわからないと思ってよいのではないでしょうか。自分の予想と,体重変化や数日単位での回復までに要した輸液量などと比較して自分で(答え合わせをしながら)感覚をつかんでゆくしかないように思います。
質問8:
質問者 : 医師 研修医
質問内容 : BUN/Crや、Ht上昇は脱水の指標とされていますが、これはどこのvolume不足を反映しているのですか?
基本的には細胞外液(あるいは血管内容量)の不足を反映すると思います。大切なことは,あくまでも参考にしても,それだけを指標にするわけではないということです。
質問9:
質問者 : 薬剤師 30代
質問内容 : ラクテックDやソリタT3Gなどの糖加輸液は浸透圧比が2ですが、細胞外の浸透圧が高くなり細胞内脱水を起こすこともあるのですか?
理論的にはありそうな気がしますが,実際上はないと思います。
質問10:
質問者 : 研修医 20代
質問内容 : dehydrationなのか、volume depressionなのかはどのように判断したらいいですか?
何度も強調したと思いますが,Dehydrationとは水欠乏なので高Na血症になります。Volume depletionは臨床的に身体所見から判断するしかありません。しかも指標となるのは一つではなく,体重減少とかバイタルの変化(血圧低下,起立性変化,頻脈),皮膚ツルゴール低下などいろんな所見を総合して判断します。
質問11:
質問者 : 医師 内科
質問内容 : この場合の脱水はVolume depletionですか? dehydrationですか?
口渇中枢が刺激されて飲水行動をとったものです。この場合の,口渇刺激は単なる浸透圧上昇だけではなかったかもしれません。口渇刺激は,視床下部の浸透圧受容体だけでなく,口内など局所の乾燥なども関連すると言われています。
質問12:
質問者 : 医師 内科 30代
質問内容 : 利尿剤はナトリウムを出すものと理解しておりましたが
高張性脱水がおきる機序はどのようなものでしょうか.
ほとんど利尿剤は,natriuresis すなわちNa利尿をおこすものとして理解してよいと思います。ただし例外的に,水利尿を起こすものとしてマニトールなどの浸透圧利尿剤があります。それと水利尿 water diuresisを起こすものとして,V2受容体拮抗薬であるトルバプタン(サムスカ)があります。これは市販される以前の論文で,diureticに対して,水(aqua)利尿を起こすものとして “aquaretics” と記載されたことがあります。
質問13:
質問者 : 研修医
質問内容 : この場合、1日で117から140までNa濃度が上がっておりますが、病歴が確認できない中で、ここまで一気に補正しても良いのでしょうか?
決して良いとは言えませんが,白状すると一気に「戻ってしまった」というのが正直なところです。水中毒による低Na血症では,しばしば起こりうることかもしれません。急性に起ったものなので,結果として大事にはいたらない訳ですが。最近は,急激に戻りすぎた場合に,free waterを再投与してNa濃度を再び少し下げた方がよいという考え方もあります。ただ例にあげたような急性の水中毒の場合は,問題にならないことがほとんどだと思います。
質問14:
質問者 : 医師 内科 30代
質問内容 : 内頸静脈をみるのは難しいと感じています. コツを教えて頂けますでしょうか.
ホント,難しいですよね。コツというほどのことはないですが,最初はなるべく痩せた患者さんから見る練習を始めることでしょうか?首の太い患者さんで見ようと努力しても,見えないものは見えないのでさっさと諦めることです。患者を選んでとにかく動脈とは違うリズムの拍動を認識することから始めればよいのではないでしょうか。
質問15:
質問者 : 内科医40代・野獣クラブ会員
質問内容 : 「入院患者さんで見られる最も多い電解質異常は、低Na血症である」と聞いたことがあります。
これは医療者による”水の過剰投与”つまり5%ブドウ糖液(成分)の入れすぎ、と考えていいのでしょうか?
ご指摘の通りです。院内で見られる低Na血症の大部分は,医療者が行う低張液の輸液によるものと言っても過言ではないと思います。低Na血症になりうるリスク群を認識して,不用意に低張液を投与しないということが大切だと思います。リスク群とは,有効循環血漿量が低下した患者,何らかの原因でADH分泌が起こっている可能性がある患者(たとえば痛みがある術後患者,嘔気の強い患者など)です。このような患者に,漫然と低張液を投与すると低Na血症を起こす危険が高いと認識しておく必要があります。
質問16:
質問者 : 医師 内科 50代
質問内容 : 慢性心不全でフロセミドを継続していて、食事量が減ってくると、低ナトリウム血症になることがあります。ナトリウムの摂取も少ないのでしょうが、身体所見では明らかでなくても、相対的に水が多いのでしょうか。低張性脱水とするとトルバプタンを使われる場合もあるでしょうが、外来では開始できません。利尿剤や水制限について、外来ではどのように指導したらよいでしょうか。
ご指摘のように,患者(しばしば男性患者さんで奥様が熱心に塩分制限をしているような場合に)が塩分制限を厳格に守っていて,低Na血症になる方がいます。この場合は,体内の総Na量はむしろ減っていると考えて,利尿剤を中止あるいは減量して,少し塩分制限を緩めるように説明すると低Na血症も改善することがあります。もちろんこの場合も,相対的には水過剰ですが,だからといってトルバプタンまで使うことはないと思います(個人的にも使ったことがない)。
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質問1:
質問者 : 20代研修医
質問内容 : 今回の講義とは少しずれますがアニオンギャップに関する質問です。
病棟で血ガスを取ると、アニオンギャップが縮小した検査結果によく出会います。
アニオンギャップの縮小はブロン酸中毒程度しか知らないのですがこれはどう解釈すればよいのでしょうか?
通常アニオンギャップに相当するのは大部分がアルブミンとされています(アルブミンは分子量約6万のpolyanionです)。したがって低アルブミン血症はアニオン・ギャップ低値の原因となります。それ以外にはラボ・エラー,高Cl性アシドーシスなどと言われています。
質問2:
質問者 : 医師 総合診療科 20代
質問内容 : 総合診療科に所属する医師3年目です。
高齢者の低Na血症に遭遇する機会が多いですが、明らかな原因が不明なもののNaは130前後と安定し無症候性の場合、reset osmostatを疑うことがあります。そのような場合、自由水負荷試験などを施行して診断をつけにいくかなど、須藤先生のアプローチを教えていただけると幸いです。よろしくお願いします。
まず尿の浸透圧あるいはtonicity(つまり尿Na+Kの値)をみます。それでfree waterの排泄の状況を見てみます。尿(Na+K)x2が100を超えていれば「最大希釈となっていない」ことから何らかの原因でADHが分泌されていると考えます。その多くは有効循環血漿量低下ではないかと思います。例にあげられたような無症候性の軽度の低Na血症に対してreset osmostatを確定診断するために,あえて負荷試験まで行ったことはありません。
質問3:
質問者 : 医師 3年目
質問内容 : 舌乾燥、腋窩の乾燥は細胞内液の評価かと思っておりましたが、皮膚ツルゴール同様に間質の水をみているのでしょうか?そのような箇所の乾燥をみた場合の輸液は何を選択すべきでしょうか?
身体所見での体液評価は原則として細胞外液の評価と考えた方が理解しやすいと思います。したがって治療としては基本的には等張液を使うだろうと思います。もちろん血液検査の結果も参考にしますが。
質問4:
質問者 : 医師 内科 30代
質問内容 : 高齢者の体液量を評価するとき
脈はbeta blockerが入っていると変わりますし、胸部X線ではなかなか撮像条件などで見え方が変わりその他の評価も難しく客観的な評価は難しいと感じております.
頸静脈もなかなか見づらいケースもあると思います.
何か客観的に体液量を評価する方法はないのでしょうか. 宜しくお願い致します.
体液量の評価する方法として残念ながらひとつだけで充分な方法はありません。いくつかの評価項目を組み合わせて総合的に判断するしかないと思います。
質問5:
質問者 : 医師 内科 50代
質問内容 : 間質の浮腫と高齢者で見られるような重力性の下腿浮腫の違いは、あるのでしょうか。体重が増加していく浮腫と、体重が変化せず水が移動するだけの浮腫との違いでしょうか。
質問の意味がよくわかりませんが,基本的には浮腫は細胞外液(間質)の体液過剰と考えればよいと思います。寝たきりの患者などで,重力にしたがって身体の下方に浮腫がみられることはよくあります(ややこしいことに,そのような患者では体重が測定できないことも多い)。基本的には体重増加を伴っているのではないかと思いますが。体重変化がなく移動しているだけのこともあるかもしれません。
質問6:
質問者 : 研修医1年目
質問内容 : Na摂取不足では低Na血症にはならないんですか。
低Na血症は「相対的」あるいは「絶対的」な水の過剰によって起こることですから,Na摂取不足でも続発して水の貯留が起これば低Na血症になりえます。
質問:7
質問者 : 医師 老年病科 30代
質問内容 : 細胞外液の評価も難しいと感じています.
Physicalでの評価ははっきりあるものはあると評価できますが
やはり「程度」の評価が難しいと思います.
何かコツはありますでしょうか.
これは難しいです。私も未だに試行錯誤です。大雑把に軽度,中等度,重症程度にしかわからないと思ってよいのではないでしょうか。自分の予想と,体重変化や数日単位での回復までに要した輸液量などと比較して自分で(答え合わせをしながら)感覚をつかんでゆくしかないように思います。
質問8:
質問者 : 医師 研修医
質問内容 : BUN/Crや、Ht上昇は脱水の指標とされていますが、これはどこのvolume不足を反映しているのですか?
基本的には細胞外液(あるいは血管内容量)の不足を反映すると思います。大切なことは,あくまでも参考にしても,それだけを指標にするわけではないということです。
質問9:
質問者 : 薬剤師 30代
質問内容 : ラクテックDやソリタT3Gなどの糖加輸液は浸透圧比が2ですが、細胞外の浸透圧が高くなり細胞内脱水を起こすこともあるのですか?
理論的にはありそうな気がしますが,実際上はないと思います。
質問10:
質問者 : 研修医 20代
質問内容 : dehydrationなのか、volume depressionなのかはどのように判断したらいいですか?
何度も強調したと思いますが,Dehydrationとは水欠乏なので高Na血症になります。Volume depletionは臨床的に身体所見から判断するしかありません。しかも指標となるのは一つではなく,体重減少とかバイタルの変化(血圧低下,起立性変化,頻脈),皮膚ツルゴール低下などいろんな所見を総合して判断します。
質問11:
質問者 : 医師 内科
質問内容 : この場合の脱水はVolume depletionですか? dehydrationですか?
口渇中枢が刺激されて飲水行動をとったものです。この場合の,口渇刺激は単なる浸透圧上昇だけではなかったかもしれません。口渇刺激は,視床下部の浸透圧受容体だけでなく,口内など局所の乾燥なども関連すると言われています。
質問12:
質問者 : 医師 内科 30代
質問内容 : 利尿剤はナトリウムを出すものと理解しておりましたが
高張性脱水がおきる機序はどのようなものでしょうか.
ほとんど利尿剤は,natriuresis すなわちNa利尿をおこすものとして理解してよいと思います。ただし例外的に,水利尿を起こすものとしてマニトールなどの浸透圧利尿剤があります。それと水利尿 water diuresisを起こすものとして,V2受容体拮抗薬であるトルバプタン(サムスカ)があります。これは市販される以前の論文で,diureticに対して,水(aqua)利尿を起こすものとして “aquaretics” と記載されたことがあります。
質問13:
質問者 : 研修医
質問内容 : この場合、1日で117から140までNa濃度が上がっておりますが、病歴が確認できない中で、ここまで一気に補正しても良いのでしょうか?
決して良いとは言えませんが,白状すると一気に「戻ってしまった」というのが正直なところです。水中毒による低Na血症では,しばしば起こりうることかもしれません。急性に起ったものなので,結果として大事にはいたらない訳ですが。最近は,急激に戻りすぎた場合に,free waterを再投与してNa濃度を再び少し下げた方がよいという考え方もあります。ただ例にあげたような急性の水中毒の場合は,問題にならないことがほとんどだと思います。
質問14:
質問者 : 医師 内科 30代
質問内容 : 内頸静脈をみるのは難しいと感じています. コツを教えて頂けますでしょうか.
ホント,難しいですよね。コツというほどのことはないですが,最初はなるべく痩せた患者さんから見る練習を始めることでしょうか?首の太い患者さんで見ようと努力しても,見えないものは見えないのでさっさと諦めることです。患者を選んでとにかく動脈とは違うリズムの拍動を認識することから始めればよいのではないでしょうか。
質問15:
質問者 : 内科医40代・野獣クラブ会員
質問内容 : 「入院患者さんで見られる最も多い電解質異常は、低Na血症である」と聞いたことがあります。
これは医療者による”水の過剰投与”つまり5%ブドウ糖液(成分)の入れすぎ、と考えていいのでしょうか?
ご指摘の通りです。院内で見られる低Na血症の大部分は,医療者が行う低張液の輸液によるものと言っても過言ではないと思います。低Na血症になりうるリスク群を認識して,不用意に低張液を投与しないということが大切だと思います。リスク群とは,有効循環血漿量が低下した患者,何らかの原因でADH分泌が起こっている可能性がある患者(たとえば痛みがある術後患者,嘔気の強い患者など)です。このような患者に,漫然と低張液を投与すると低Na血症を起こす危険が高いと認識しておく必要があります。
質問16:
質問者 : 医師 内科 50代
質問内容 : 慢性心不全でフロセミドを継続していて、食事量が減ってくると、低ナトリウム血症になることがあります。ナトリウムの摂取も少ないのでしょうが、身体所見では明らかでなくても、相対的に水が多いのでしょうか。低張性脱水とするとトルバプタンを使われる場合もあるでしょうが、外来では開始できません。利尿剤や水制限について、外来ではどのように指導したらよいでしょうか。
ご指摘のように,患者(しばしば男性患者さんで奥様が熱心に塩分制限をしているような場合に)が塩分制限を厳格に守っていて,低Na血症になる方がいます。この場合は,体内の総Na量はむしろ減っていると考えて,利尿剤を中止あるいは減量して,少し塩分制限を緩めるように説明すると低Na血症も改善することがあります。もちろんこの場合も,相対的には水過剰ですが,だからといってトルバプタンまで使うことはないと思います(個人的にも使ったことがない)。