今週はネット上でHPVワクチンが話題となっていました。
HPVワクチンについては米国とオーストラリアで承認された2006年の前から、IDSAのセッション等で話を聞いていて、現場の医師やFDAの人たちとも情報交換する機会がありました。そこからすでに10年がたっています。
当初、日本では導入されないのではないかと思っていましたが、2つあるワクチンは日本でも承認販売となりました。
海外と異なっていたのは、その時点ですでに大方が4価ワクチンを採用していたのに、日本では先に申請が始まっていた4価ではなく2価が導入されたことです。そして「おかしいのではないか」と思うほどに4価の導入が遅れました。
ネットにみる陰謀論とは違うものではありますが、ふだんから予防接種を護る側にいる専門家からも疑義の目を向けられはじめたのは、このあたりからです。ワクチンそのもの問題ではなく、その"あやしげ”な経緯、製薬会社の動き、そして、「ふだんから製薬会社と密な関係らしい」と見られている専門家に向けられる疑義の目。
結果的にワクチンの効果の受益者である人たちのアクセスを妨げる現状に至った背景にはいくつもの、日本独特の因子があったようにおもいます。
このワクチンのもうひとつの「異様な」経緯として、ふだんはワクチン批判に熱心なメディアがその社説で「自治体による格差はいけない」「さっさと公費でやれ」的キャンペーンをはり、そしてワクチンには距離をおいていた低調モードの学校や保健所/行政が接種を勧めてまわったことです。
議員や政党は「私のお手柄!」と政治利用しました。
人々を守るために開発されたワクチンはこの流れの中で、本当に必要としている人たちから遠ざけられることとなりました。
副反応の話も、調査結果でわかるように、接種勧奨をとめるような頻度や内容のものはありません。「とてもまれ」なものは因果関係の説明がつかない状況で、因果関係が説明つかなくても受診や通学のサポートをしましょうという話になっているのは、接種勧奨再開に向けてのステップであります。
それでもなお、他の人の接種も許さない、このワクチンは抹殺だ、ワクチンすべてが悪だというむきの人もいます。
立場によって、もっている情報によって、そもそもの情報フィルターによってこの問題へのリアクションはかなり幅がありますが、1次情報を読んでいない/検討会資料も読んでいない/情報源はテレビや雑誌だけ、というひとたちと、仕事で関わり情報をフォローしている人、日常的に病気の人をケアしている人と、日常からワクチンに呪いの言葉を発しているアカウントと、サポートの視点で動いている人のアカウントと、いろいろあります。
これまでにもワクチン関係でも騒動や事件はありましたが、このHPVワクチンの対応については日本独特の状況があります。
属性批判や組織批判など周辺の話をしはじめている時点で、もう医薬品や公衆衛生としての議論がずれているわけですが。その事象じたいが日本の現状です。どこでずれたのか、何か課題か。今後のために検証するには次に紹介するような場にぜひお出かけいただければとおもいます。
今週話題となったきっかけは、ジャーナリストがWedgeに書いた3つの連続記事です。
村中氏が紹介するような事情を知らなかったと驚いた人もいたでしょうし、知っていて静観していた人も「書かざるをえなかったか」と思ったかもしれませんし、これ自体が陰謀だと説明するために個人批判を始めた人もいるようです。
書いたのは医師でジャーナリストの村中璃子氏。 Facebook と Twitter が公開されています。
3つの連載記事はこちら。
あの激しいけいれんは本当に子宮頸がんワクチンの副反応なのか 日本発「薬害騒動」の真相(前篇)
2015年10月20日(Tue)
子宮頸がんワクチン薬害説にサイエンスはあるか日本発「薬害騒動」の真相(中篇)
2015年10月21日(Wed)
子宮頸がんワクチンのせいだと苦しむ少女たちをどう救うのか 日本発「薬害騒動」の真相(後篇)
2015年10月23日(Fri)
10月22日から日経ビジネスでも「Dr.村中璃子の世界は病気で満たされている」というシリーズがはじまっているようです。
amazonで探してみたところ単行本はないようですが、どのような分野で調査や執筆をしているのかはネットで知ることはできます。上記Wedgeでは9つの連載記事がありました。
詳細は別記事に書きますが、実は「新しい」はなしではありません。
ちなみに。
この問題について調べて書いている人は他にもいます。ライター、ジャーナリストなど自称の肩書きはいろいろですが・・・
黒川祥子氏 Twitter
『子宮頸がんワクチン、副反応と闘う少女とその母たち』
『熟年婚 ---60歳からの本当の愛と幸せをつかむ方法』
『恋よ、ふたたび! 55歳・バツ2女のガチンコ婚活記』
『誕生日を知らない女の子 虐待――その後の子どもたち』第11回開高健ノンフィクション賞
鳥集 徹氏 SNSはみつけられませんでした
『新薬の罠 子宮頸がん、認知症…10兆円の闇』 第4回日本医学ジャーナリスト協会賞 書籍部門大賞
ここの第一章が「カネで動いた子宮頸がんワクチン」で、
1「心の問題」にされた少女たち
2製薬会社のセールスマンとなった専門家
3政治家を動かす製薬ロビイスト
4キャンペーンに加担したマスコミ となっています。
他の単行本として、『ネットで暴走する医師たち』『腰痛治療革命 第一人者が教える7つの新常識【文春e-Books】『広島の実力弁護士―国内初弁護士評価ガイド』がありました。
斎藤貴男氏 Web連載 <子宮頸がんワクチン問題を追う>
『子宮頸がんワクチン事件』
単行本はたくさんあるのでWikipediaを参照してください。
と、最近のものだけでも3つ「調べて書いた」ものがあります。これらの3冊と村中氏の書いているものがどう異なりどう重なっているのか。次の連休にまた読んでみたいとおもいます。
いろいろな意見があるものについては、公開の議論の場でコミュニケーションをとるのがよいのではないかとおもいますが、、、、
まず、平成26年12月 日本医師会・日本医学会合同シンポジウム「子宮頸がんワクチンについて考える」では、著名なドクターたちの意見交換がありまして、医師の関心/論点が分かる内容になっています。ここでのスライド資料は厚労省の会議の資料として公開されています。
すごい量ですが、原稿ではなくスライドなので読めると思います。
今後の公開の場としては、先週インターネットで知った企画があるので3つ紹介します。
1)2015年11月23日 シンポジウム 「子宮頸がんワクチン」問題を考える -海外からの報告を踏まえて-
2)2015年11月28日・29日 第10回現場からの医療改革推進協議会
3)2015年12月5日 日本性感染症学会 教育講演1「今どうなっているのか—HPVワクチン。~HPVワクチン普及のためになすべきことは?~」
1)についてはスピーカーの情報もあります。デンマークから医師が一人来日するそうです。
Pubmedで9件ヒットこのうち2件がHPVに関連したもの。
受診した人が母集団で、そのうちどのような症状があったのかという報告。
(批判は出ています。
まあ、ケースレポート故に最初から限界がありますが。この記事の中では日本も批判されています)
Vaccine. 2015 May 21;33(22):2602-5
Orthostatic intolerance and postural tachycardia syndrome as suspected adverse effects of vaccination against human papilloma virus.
PDFで全文よめます
Dan Med J. 2015 Apr;62(4):A5064.
Suspected side effects to the quadrivalent human papilloma vaccine.
勉強をした人なら知っている「基本的なこと」ですが、医薬品等の介入の効果をみるためには、接種した人たちとしていない人たちを比較する必要があります。
デンマークはじめ北欧には、全国民の医療データのデータベースがあって、質問紙調査などをしなくてもシステマティックに情報を得ることができます。
BMJ 2013; 347
Autoimmune, neurological, and venous thromboembolic adverse events after immunisation of adolescent girls with quadrivalent human papillomavirus vaccine in Denmark and Sweden: cohort study
J Natl Cancer Inst (2014)
Early Impact of Human Papillomavirus Vaccination on Cervical Neoplasia—Nationwide Follow-up of Young Danish Women
BMJ Open 2015
The impact of HPV vaccination on future cervical screening: a simulation study of two birth cohorts in Denmark
参考:欧州小児出生コホート調査報告
デンマークのドキュメンタリー TV2 Denmark "De vaccinerede piger" (with English Subs) for international viewingも日本のテレビが報じたような事例を扱っています。
実際には現時点ではヨーロッパでは痙攣症状などは調査がかかっていません。痛みとPOSTのレビューが行われているところです。
HPVワクチンについては米国とオーストラリアで承認された2006年の前から、IDSAのセッション等で話を聞いていて、現場の医師やFDAの人たちとも情報交換する機会がありました。そこからすでに10年がたっています。
当初、日本では導入されないのではないかと思っていましたが、2つあるワクチンは日本でも承認販売となりました。
海外と異なっていたのは、その時点ですでに大方が4価ワクチンを採用していたのに、日本では先に申請が始まっていた4価ではなく2価が導入されたことです。そして「おかしいのではないか」と思うほどに4価の導入が遅れました。
ネットにみる陰謀論とは違うものではありますが、ふだんから予防接種を護る側にいる専門家からも疑義の目を向けられはじめたのは、このあたりからです。ワクチンそのもの問題ではなく、その"あやしげ”な経緯、製薬会社の動き、そして、「ふだんから製薬会社と密な関係らしい」と見られている専門家に向けられる疑義の目。
結果的にワクチンの効果の受益者である人たちのアクセスを妨げる現状に至った背景にはいくつもの、日本独特の因子があったようにおもいます。
このワクチンのもうひとつの「異様な」経緯として、ふだんはワクチン批判に熱心なメディアがその社説で「自治体による格差はいけない」「さっさと公費でやれ」的キャンペーンをはり、そしてワクチンには距離をおいていた低調モードの学校や保健所/行政が接種を勧めてまわったことです。
議員や政党は「私のお手柄!」と政治利用しました。
人々を守るために開発されたワクチンはこの流れの中で、本当に必要としている人たちから遠ざけられることとなりました。
副反応の話も、調査結果でわかるように、接種勧奨をとめるような頻度や内容のものはありません。「とてもまれ」なものは因果関係の説明がつかない状況で、因果関係が説明つかなくても受診や通学のサポートをしましょうという話になっているのは、接種勧奨再開に向けてのステップであります。
それでもなお、他の人の接種も許さない、このワクチンは抹殺だ、ワクチンすべてが悪だというむきの人もいます。
立場によって、もっている情報によって、そもそもの情報フィルターによってこの問題へのリアクションはかなり幅がありますが、1次情報を読んでいない/検討会資料も読んでいない/情報源はテレビや雑誌だけ、というひとたちと、仕事で関わり情報をフォローしている人、日常的に病気の人をケアしている人と、日常からワクチンに呪いの言葉を発しているアカウントと、サポートの視点で動いている人のアカウントと、いろいろあります。
これまでにもワクチン関係でも騒動や事件はありましたが、このHPVワクチンの対応については日本独特の状況があります。
属性批判や組織批判など周辺の話をしはじめている時点で、もう医薬品や公衆衛生としての議論がずれているわけですが。その事象じたいが日本の現状です。どこでずれたのか、何か課題か。今後のために検証するには次に紹介するような場にぜひお出かけいただければとおもいます。
今週話題となったきっかけは、ジャーナリストがWedgeに書いた3つの連続記事です。
村中氏が紹介するような事情を知らなかったと驚いた人もいたでしょうし、知っていて静観していた人も「書かざるをえなかったか」と思ったかもしれませんし、これ自体が陰謀だと説明するために個人批判を始めた人もいるようです。
書いたのは医師でジャーナリストの村中璃子氏。 Facebook と Twitter が公開されています。
3つの連載記事はこちら。
あの激しいけいれんは本当に子宮頸がんワクチンの副反応なのか 日本発「薬害騒動」の真相(前篇)
2015年10月20日(Tue)
子宮頸がんワクチン薬害説にサイエンスはあるか日本発「薬害騒動」の真相(中篇)
2015年10月21日(Wed)
子宮頸がんワクチンのせいだと苦しむ少女たちをどう救うのか 日本発「薬害騒動」の真相(後篇)
2015年10月23日(Fri)
10月22日から日経ビジネスでも「Dr.村中璃子の世界は病気で満たされている」というシリーズがはじまっているようです。
amazonで探してみたところ単行本はないようですが、どのような分野で調査や執筆をしているのかはネットで知ることはできます。上記Wedgeでは9つの連載記事がありました。
詳細は別記事に書きますが、実は「新しい」はなしではありません。
ちなみに。
この問題について調べて書いている人は他にもいます。ライター、ジャーナリストなど自称の肩書きはいろいろですが・・・
黒川祥子氏 Twitter
『子宮頸がんワクチン、副反応と闘う少女とその母たち』
『熟年婚 ---60歳からの本当の愛と幸せをつかむ方法』
『恋よ、ふたたび! 55歳・バツ2女のガチンコ婚活記』
『誕生日を知らない女の子 虐待――その後の子どもたち』第11回開高健ノンフィクション賞
鳥集 徹氏 SNSはみつけられませんでした
『新薬の罠 子宮頸がん、認知症…10兆円の闇』 第4回日本医学ジャーナリスト協会賞 書籍部門大賞
ここの第一章が「カネで動いた子宮頸がんワクチン」で、
1「心の問題」にされた少女たち
2製薬会社のセールスマンとなった専門家
3政治家を動かす製薬ロビイスト
4キャンペーンに加担したマスコミ となっています。
他の単行本として、『ネットで暴走する医師たち』『腰痛治療革命 第一人者が教える7つの新常識【文春e-Books】『広島の実力弁護士―国内初弁護士評価ガイド』がありました。
斎藤貴男氏 Web連載 <子宮頸がんワクチン問題を追う>
『子宮頸がんワクチン事件』
単行本はたくさんあるのでWikipediaを参照してください。
と、最近のものだけでも3つ「調べて書いた」ものがあります。これらの3冊と村中氏の書いているものがどう異なりどう重なっているのか。次の連休にまた読んでみたいとおもいます。
いろいろな意見があるものについては、公開の議論の場でコミュニケーションをとるのがよいのではないかとおもいますが、、、、
まず、平成26年12月 日本医師会・日本医学会合同シンポジウム「子宮頸がんワクチンについて考える」では、著名なドクターたちの意見交換がありまして、医師の関心/論点が分かる内容になっています。ここでのスライド資料は厚労省の会議の資料として公開されています。
すごい量ですが、原稿ではなくスライドなので読めると思います。
今後の公開の場としては、先週インターネットで知った企画があるので3つ紹介します。
1)2015年11月23日 シンポジウム 「子宮頸がんワクチン」問題を考える -海外からの報告を踏まえて-
2)2015年11月28日・29日 第10回現場からの医療改革推進協議会
3)2015年12月5日 日本性感染症学会 教育講演1「今どうなっているのか—HPVワクチン。~HPVワクチン普及のためになすべきことは?~」
1)についてはスピーカーの情報もあります。デンマークから医師が一人来日するそうです。
Pubmedで9件ヒットこのうち2件がHPVに関連したもの。
受診した人が母集団で、そのうちどのような症状があったのかという報告。
(批判は出ています。
まあ、ケースレポート故に最初から限界がありますが。この記事の中では日本も批判されています)
Vaccine. 2015 May 21;33(22):2602-5
Orthostatic intolerance and postural tachycardia syndrome as suspected adverse effects of vaccination against human papilloma virus.
PDFで全文よめます
Dan Med J. 2015 Apr;62(4):A5064.
Suspected side effects to the quadrivalent human papilloma vaccine.
勉強をした人なら知っている「基本的なこと」ですが、医薬品等の介入の効果をみるためには、接種した人たちとしていない人たちを比較する必要があります。
デンマークはじめ北欧には、全国民の医療データのデータベースがあって、質問紙調査などをしなくてもシステマティックに情報を得ることができます。
BMJ 2013; 347
Autoimmune, neurological, and venous thromboembolic adverse events after immunisation of adolescent girls with quadrivalent human papillomavirus vaccine in Denmark and Sweden: cohort study
J Natl Cancer Inst (2014)
Early Impact of Human Papillomavirus Vaccination on Cervical Neoplasia—Nationwide Follow-up of Young Danish Women
BMJ Open 2015
The impact of HPV vaccination on future cervical screening: a simulation study of two birth cohorts in Denmark
参考:欧州小児出生コホート調査報告
デンマークのドキュメンタリー TV2 Denmark "De vaccinerede piger" (with English Subs) for international viewingも日本のテレビが報じたような事例を扱っています。
実際には現時点ではヨーロッパでは痙攣症状などは調査がかかっていません。痛みとPOSTのレビューが行われているところです。