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Channel: 感染症診療の原則
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韓国MERS と 感染症指定医療機関

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韓国MERSの関心は、新規感染者が減るにつれ報道が減っているのでどんどん低下中。

現時点では特定の医療機関でのアウトブレイクの話なので、韓国に行くなとか韓国からきた人を診療拒否とかずれた対応をしているむきは大丈夫かなのでありますが、医療関係者には今回の問題が日本だったら何が課題だろう?と考えるネタがそこかしこにあります。

医療者にとっては、MERSはいち感染症で、とるべき対策は明確ですので、あとは感染症としてどのような支持療法やケアをしますか?というはなしです。

ただし、医療者や周囲への2次感染を起こさないようにしなくてはいけないので、設備としては患者の状態によってはPPEや個室、陰圧室が必要だったり、隔離病棟対応をするためのスタッフの人数の確保、そしてそのスタッフはPPEを適切に使えるように訓練が終わっているということがボトムラインです。

感染症指定医療機関は、すくなくとも昨年のエボラ騒動で、そのボトムとしての設備確認や勉強会は行われたのではないかと思います。

7月3日のニュースによると、スタッフや家族に感染が広がっているサムスン病院に残っている患者の12例(治療間際の人などをのぞき)を他の病院にうつす、ということがありました。

サムスン病院の感染防御がどこかうまくいっていないのかもしれないという視点と、長期化する中でスタッフが疲弊しているだろうということと2点あります。

MERS patients at Samsung Medical moved

例えばですが、10人のMERSの患者、そのうち2割ぐらいが基礎疾患のある具合の悪い人で、あとは元気といえども隔離やなんらかの治療が必要な人だとします。

この特別勤務シフトを何日間まわせるか?です。
隔離が必要な人の人数分、14日間ベッドがうまります。


昨年から今年にかけて日本の第一種感染症指定医療機関は合計8例のエボラの疑い症例の対応をしました。
幸いどのケースも陰性で、初動として入院対応をしたり感染研の結果を待つまでは大変だったともいますが、全体でみると数日で終わり、医師や看護師のシフトの問題もおきませんでした。

サムスン病院のような状況になった時に、日本の感染症指定医療機関は何人くらいまでなら対応できるでしょうか?

もともと医療機関にはまさかにそなえてのプラスアルファの人員が確保されているわけではありません(残念ながら)

他の診療も守りながらこの対応を続けることは実際にはかなりハードルが高く、人員確保のためには他の病床をいったん閉鎖するなどしないと看護のシフトはもまわらないかもしれません。


サムスンから患者をうつすさきの公的な病院は、それまで入院していた患者を他に移動させたりと、緊急避難的な対応をしています。
スタッフの訓練状況にどの程度差があるのかわかりませんが、対策としてはさらに1歩踏み込んだかたちになります。
患者の移送などもたいへんですが、サムスンでの対策を破たんさせずにこのままうまく終わらせるためには必要だったのでしょう。


外国人患者を受け入れるための標準化の1指標である米国のJCIの審査を受ける際には、陰圧室の管理具合含め、様々な問題を見直すことになります。
(ちなみにサムスンも患者移送先の病院もJCI認定ではありません)


陰圧室については関連記事があります。

7月3日 外媒:韩国多人病房结构是MERS扩散主要原因之一


韓国内には陰圧室をもつ病棟が668あり、1131の通常隔離病棟があります。
韓国全体でみると全体の2.6%が個室。

規模の大きな病院での陰圧個室の費用は1日あたり32万ウォンであり、もっとも高額なSeoul Asan Hospitalで44万9千ウォン、サムスンソウル、St. Mary’s Hospital(ソウル)で44万7千ウォン とのことです。

今回のような場合、日本では法律に基づいて入院していただく場合の費用は自治体が負担します。
必要な検査や治療は健康保険でカバーする分はまずそこでカバーし、その他を自治体がカバーします。

緊急対応によってその期間失う収入の補填まであるのかわかりませんが、今回の韓国の規模で考えると、リーダーがどの時点で有効な策をうつかで病院としての負荷が決まって来ることが皆に伝わりました。

韓国の医療やケアの文化含めてどう再整備されるのか注目しています。



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