Quantcast
Channel: 感染症診療の原則
Viewing all articles
Browse latest Browse all 3238

HIV/AIDS 発生動向 と その周辺 

$
0
0
専門職が仕事上必要があって積極的に探したり検討をする情報と違って、世の中に出回る感染症の情報やイメージはメディアによってつくられるところが大きいです。

つまり、事実→<メディア/媒体/記者のフィルターで加工>→発信されている情報 であり、

さらに、発信された情報→<個人の理解力/その時の気分>→ 認識された情報 になるわけです。

現在報道されている記事の出どころは、行政による報道発表(プレスリリース)だったり、学会演題発表だったり、個別の研究者や医療者のアピール(持ち込み)であります。

行政による報道発表は、それが言いかどうか別として「行政がわざわざ言っているから意味があるんだろう」的に垂れ流しにされやすく、そのいい例がインフルエンザシーズンで毎年くりひろげられている、高齢者施設で95歳や100歳が死にました、的なものです。
医療者からすると理解不能なニュースですが(自然現象であるので)、ときに施設に何か落ち度があったかのようにでもいいたげな文章を各記者やメディアもあります。

行政が発表をやめればいいんじゃないかと、シンプルですが、そのことにより誰かが利益をえるわけではないのに広くアナウンスをするのは指針として間違っています。
こういったちぐはぐなことをしたままですと、平時も危機発生時も信頼されなくなりますので早くやめたほうがいいです。
必ず公表をしろとは法律で決まっている訳ではないので、自分たちで決めればいいんですけどね。

もっと大事な問題を伏せていたりするので余計に・・・です(詳細略)。

学会発表は、多剤耐性菌のアウトブレイク事例などをキャッチされ、その後に病院あてに取材がきたりします。
学会用の情報ですから、院内では当然クリアされているでしょうし、科学的に共有する意味があるという発表者や共著者の責任判断のもとですから、言葉足らずなところを補う(記者に理解してもらう)いいチャンスと考えて面談の時間をとるのが妥当な道です。
トラブルが起きるのは、上司や職場、ICTなど院内の関係者に伝えないまま公表したりしている事例です。そしてメディア対応を医師個人でしたりする場合。
個別の研究者や医療者のアピールの場合は、アウトブレイク対応の端緒になったり前向きな話もありますが、バックに別の思惑がある人がいたりとか(ぼそぼそ・・・)いろいろです。


いずれにしても、説明する側も、理解しなくてはいけな側も、その数字や事象の意味や限界を踏まえて、そもそも何のメッセージを出そうとしているのか?が課題であります。
メッセージがいつも同じであることはstable(増えてもないし、ひきつづき今の取り組みを続ける)と考えるきっかけにはなりますが、伝える仕事の人たちは困ります。

各社報道、のきっかけとなっているエイズ関連2月24日発表データ関連でみてみましょう。

24日25日の報道の一部。 HIVは診療体制も整い、支援制度も他の難病等に比べても高水準で、感染している層にも特に変わりはなく、何を書けばよいのかおそらく記者もわからなくなっているかもな昨今でありますが・・・


読売 「エイズ感染・患者、昨年国内で1520人を確認」
朝日 「HIV感染者とエイズ患者、新たに1520人」
日経 「エイズ発症患者が減少 14年、39人減の445人」
産経 「26年のHIV感染・発症は1520人」
NHK 「献血でエイズ確認 依然高水準」


保健所検査が減ったために把握が減ったのだとこのところいわれていましたが、今回の比較でいうと保健所検査は前年度よりは増えています。

NHKが献血に注目していたので、何かあったかな?とみたのですが、(いつもの報道とおなじく)分母情報が不足しているので、まず、バックグラウンドデータを知る必要があります。

安全な血液の確保、はどの国でも取り組み課題でありますが、日本ではどのようなことをやっているのかは、薬事・食品衛生審議会 (血液事業部会)の配布資料等を見ながら学ぶことができます。
安定供給のほか、感染リスクをどうしたら下げられるかに取り組みが続けられています。
昨年12月の配布資料の中にも感染症関連の情報があります。

感染症は、time, place, person、誰がいつどこでどのように感染しているのか?がキモで、場所は都道府県情報(ただし東京の医療機関からあがる数字には、周辺の県から検査や受診しにきた人が含まれているので,全員がその自治体の人というわけではありません)。人は、男性が9割とか、年齢区分で、お年寄りはセックスが活発な年齢ですね、、ということが把握できます。
ただ、「いつ」はわかりません。

病原体には、インフルエンザやエボラのように感染したら数日、というような比較的早く症状が出るものと、数ヶ月数年たって体調不良に気づくというものもあり、HIVの場合は後者なので、いつごろ感染した人の数字をひろっているのかがわかりません。

ただし、すごく体調の悪いような人は献血にきませんので(来ても断られる)、元気な人がその分母、という理解ができます。

献血では「初期の検査で見つけられずすり抜けがおきた」ということがニュースになるように、感染して間もない人が献血をしてしまったための事例などから、そういった人が交じっていることが把握可能なソースになっています。
(このとき注意をしたいのは「検査目的はやめてくれ」的な正義論です。検査目的だったかどうか、それを調査の中で伝えるかどうかはたいへん微妙な話ですから・・・)

余談ですが、海外の取り組み例のように、献血の最初の問診のところに迅速検査を入れて(15分で判定)、検査をする機会にするというのは一案です。
学会発表や拠点病院の資料等を読むと、献血がきっかけでHIV診断されて受診する人が一定数いることは把握可能ですので、「献血では結果は教えていません」とアナウンスをする中で、どっちがほんとうなんですか?的な疑心暗鬼をもたれるよりいいと考えるメディアの方はいませんかね・・

さて。数字です。
確率的に高くないイベントを説明するときの分母は100万だったり10万になりますが、献血では10万あたりで出しています。

2007年に102件となり、10万あたり2をこえて大きなニュースとなりました。
その後、2008年 2009年も高かったのですが、その後、2010年から1.6、2012年から1.2と下がってきています。

(日本では新規HIV感染報告の95%が男性なので、男女別の数字でみたらまた数字が変わってきますがそこまで踏み込む記事はみかけません)

24日発表の2014年の速報値をみますと、10万件あたり1.24。ここ数年変わらないレベル、であります。

幸い、HIV診断がついたあとは、1日1回1錠、副作用の少ない薬を服用できる時代になり、ウイルス量が下がれば他の人への感染リスクも減るという、早期診断で皆にメリット・・・な時代になりました。(結核の人が抗結核薬を服用することで周囲への感染リスクが減るのと同じ)

ワクチンがありませんのでゼロにはならない感染症ですが、今後もstable、分母の人口の減少と同じように全体の総数も減って行く、、となるよう願っています。














Viewing all articles
Browse latest Browse all 3238

Trending Articles