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Channel: 感染症診療の原則
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麻疹 今そこにあるリスク

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昨年、米国はとんでもない数の麻疹が報告されました。

それはフィリピンの災害支援に出かけたアーミッシュの人たちが麻疹ウイルスを持ち帰って、コミュニティに広がったことが原因でした。
オハイオ州の公衆衛生局のページ

「アーミッシュ」が何かしらなくても生きてはいけますが、感染症対策に関わる人は知っていないといけません。

Measles Outbreak In Ohio Leads Amish To Reconsider Vaccines

青木編集長は実はちょっとなじみがあります(出身とか仲間というわけではありませんがー)。

ワクチンを積極的には接種しない人は全体からみるとごくごく少数なのですが、麻疹のように感染力が強いウイルスだと、コミュニティへの外への影響が出てしまいます。

自己決定とか個人の自由とのバランスの話でもありますが、病気になる当事者と、保護者はそもそも別の個体であって、保護者が子どもを病気にしていい・リスク回避をしなくていいのかという疑問は常に残ります。

鉄板の接種率を誇るオランダでも、ある宗派のキリスト教の地域ではワクチン接種率がとても低く、数年に1度麻疹が大ブレイクして、重症になる人や死亡例が出ています。



そして、2014年12月にカリフォルニア州のディズニーのテーマパークで曝露して広がったと思われる麻疹症例と、現時点では3次感染例が報告されはじめています。

カリフォルニアでは2014年の1-4月も流行していたんですが。


ちょっと探してみたら・・・ブツブツ加工されたミッキーがいました。




「疫学的リンクがある」という言い方をします。
つまり、本人はカリフォルニアにいっていないが、家族や周囲にいた人が先に感染していて、自分はそのあともらってしまった・・・というパターンですね。


ディズニーランドで働いている人が5名発症、そのあと発症した人は有給休暇で休ませているそうです(当然)。というか、このような接客業の人は、就職の際に接種歴を確認したほうがいいのではないですかね?OSHAの基準にあるのかどうか。

周辺の高校では野球部のコーチが発症。

症例が把握されている学校では、入学時に未接種のままの学生が21日の自宅待機になっています。
症例が出続ける限り延長されるので、最悪の場合1ヶ月くらい学校に行けなくなるかもしれません。

当然、勉強は遅れるし、子どもの年齢によっては保護者も会社を休まなくてはいけないのでこれはかなりたいへんなことです。

予防接種を拒否・辞退する制度は週によって少しずつことなります。
詳細はCDCのサイトにあります

健康上できないひと(medical)、信仰ゆえにしないひと、そしてpersonal belief exemption思想・個人の信条でしないひと、の3カテゴリーのうち、医療上難しい人はしかたないですが、あとの2つはどうなのかということであります。

知識や情報がないからしない、という人もいますが、いろいろ調べたうえで「よそのお子さんたちが接種して、高い接種率になればうちの子はしなくてもすむんじゃないかしら?」という(フリーライダーと批判される)人たちもいます。

カリフォルニアはそうした辞退率が高いことで知られていたわけですが、今回のような『事件』がおきるとその縛りは厳しくなっていくわけでして、"California Law Makes It Harder to Skip Vaccinations"となるのでしょう。

カリフォルニアのどのあたりが・・・を調べた記事がありました。(1月27日 Washington Post)



「こういう人たちは、どこかの島に住んだらいいんじゃないか?」(隔離、という意味ですね)
という意見もよく聞きます。

そうかもしれませんが、巻き添えになるお子さんたちが気の毒ですね。

昔、麻疹の免疫がない住民ばかりの島に、外からウイルスを持ち込んで・・・という事例が複数ありました。

どうなったかというと・・・

Extreme Mortality After First Introduction of Measles Virus to the Polynesian Island of Rotuma, 1911

関心ある方はリファレンスの資料などもぜひお読みください。

Peter Ludwig Panum. Observations Made During the Epidemic of Measles on the Faroe Islands in the Year 1846.


初期の記録から、潜伏期間が10日前後であることや、発疹が現れる2日前には患者が感染性をもっていること、気付いた時点で患者を隔離してもひろがる感染症であることなどがわかったわけですね(感染症疫学の夜明け、、、的な話であります)。

日本でも、歴史資料をみていくと、赤斑瘡/赤瘡(赤もがさ)が流行したとか、人がバタバタ死んだとかいった記録がたくさんあります。


ワクチンの一番の副作用は、「ひとびとが病気の怖さを忘れる(認識できなくなる)」ことだ、という言葉を思い返します。

「周囲に麻疹なんていないけど?まだワクチンいるの?」 などなど。


エボラで学んだように、他の地域での流行も止める支援をしないと終わらない取り組みなのであります。
すでにユニセフやGAVIなどが取り組んでいることですが。地味な仕事ゆえ根気も必要。
感染症に関わる人たちは、自分が直接ワクチン接種をする立場ではなくても、1次予防としてのワクチン、その歴史や課題を学ぶことは必須なのであります。

タイトル写真:トーマスのブツブツ皮疹をチェックする編集長


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